Forever1
「俺達別れよう、このまま一緒にい居てもダメになる…」
冬真っ只中に、そんな話。
すっごい惨め。なんで?どうして?
答えなんて分かってる。
忙しさを理由に私も直人も大事なものを見失っていた。
付き合いたてのピンク色のふわふわした気持ちなんて遥か昔に置いてきてしまった。
「別れた?え?ほんとに!?」
「……ほんとに…」
親友宅に遊びにきた、金曜日の夜。
鍋やるからゆきみもおいで!って言われて帰り際に寄ってごく最近の心境を報告した。
さも、信じらんない!って顔で私を見つめる親友奈々。
思わず鍋の準備をしているその手を止めさせてしまった。
「あ、でも私も何かちょっとだけそんな感じだったっていうか…」
「そんな感じ?」
「ここんとこずっと気持ちがついていかないっていうか。直人もすごく仕事が忙しくて、私も私で自分の時間大事にしてて、たまに逢っても特に何もせず1日過ぎてっちゃって。つまらないってわけじゃないんだけど、直人に対して感情がないっていうか。好きは好きだけど、愛……とはまた違うような?気もして。うまく言えないんだけどね…」
当たり前に納得なんてするわけない奈々。
「直人さん、許せない。ゆきみのことちゃんと幸せにするってあたしに誓ったのに。もうフルボッコにするしかないわね!」
冗談交じりの奈々の言葉に二人で微笑んだ。
せめてもの救いだった。
こうして奈々が傍にいてくれるのは。
仕事や趣味は大事で、生きていく上で必要なこと。
時にホッとする時間を共有できる相手は大人には必要で。
それが無くなってしまった今、色恋云々ではなく、心を寄り添える親友が傍にいることが、これほどまでに安心できるなんて。
直人が傍にいたらこんなことすら気づかなかったのかもしれない。
直人と離れたことで、また違う世界を見つけられるのなら、この別れに未来はあると言えるよね。
寂しい気持ちはあったものの、自分ではそれほどダメージを受けていないって。
大丈夫だって思っていたんだ。
そして知った―――――フリーになった女はモテルということを。
「ゆきみ飯行かねぇ?」
ポンって肩を叩かれて顔を上げるとそこには同期の敬浩。
ニッコリ微笑むその顔は社内でも人気ベスト5に入るイケメン。
元々私達同期は仲も良くてしょっちゅうつるんでいたから特に違和感なんてものはないものの、直人と付き合うようになってからは遠慮してかそれほど声をかけられることも少なくなっていたんだった。
直人と別れて1ヶ月。
特に誰かに言うつもりはなかったものの、噂はどこからか広まって、社内のほとんどの人がきっと私達の別れを知ったんだと思われる。
部署も違うから社内で直人と逢うことはほとんどないというのに。
一体誰が気づいたんだか。
「うん、行く!」
パソコンにロックをかけて私は財布とスマホを持ってコートを羽織った。
ロビーを出て横断歩道を渡って向こう側の脇道に入ると小料理屋が沢山つらなっていて。
「あ、ここがいい!知ってる?この前夕方のニュースでこのお店特集やってたの!ローストビーフが美味しいんだって!」
「オッケー!んじゃ入ろうぜ!」
敬浩に背中を押されて中に入った。