Secret5
「あ、動かないで!」
「………」
直人に契約のキスをされたあの日以降、私の部屋に直人の歯ブラシがこっそり増えた。
大学とバイト先の間にある私の部屋に直人が出入りすることにも慣れてきた。
興味を持て!と言った直人が私にしたのはあのキス1回だけ。
それ以外は私の部屋で寝泊りするものの、同じベッドに寝ても抱きしめられるだけだった。
そこにどんな気持ちがあるのかなんて私にはさっぱり分からなくて。
でも哲也には何も言っていない。
何もしなくても寝泊りなんて許されないと思う。
「…腹減った…ゆきみ飯行こうぜ」
ベッドの上で、妖艶な表情をしていた直人が眠そうな顔で私を見ている。
でも私の手は止まりそうもなく。
ペンを持ったままベッドに近づいて直人の白シャツのボタンを一つ開けた。
何か違う、もう一つ?
ボタンをもう一つ開けると小麦色の綺麗な肌が見えた。
思わず息を飲んでシャツの中を覗き込むと、プッて頭の上で笑いが起る。
えっ!?って、顔を上げたら直人の顎にガンって頭突きしたようで。
「いってぇ!!」
上向きで直人が叫んだんだ。
「わ、ごめんねっ!大丈夫!?」
顔をこっちに向けると思いの外その距離が近くて、唇が触れそうなそれに顔を慌てて背けた。
「お前なぁ、あからさまに逸らしてんじゃねぇよ。つーか俺の腹筋覗き込んだだろー、全くやだやだ欲求不満?哲也に抱かれてねぇの?」
「…うるさい」
「へぇーそんな口きくんだ?俺に向かって?」
偉そうに口端を緩めてそう言われて。
見つめる瞳は絶対この状況を楽しんでいるって分かる。
「だってそんな腹筋バッキバキだと思わなかった…」
「かっこいい?」
「え?」
「かっこいいだろ?」
「……うん」
見つめるその瞳が、かっこいい。
直人は自分の見せ方をちゃんと分かっている。
どうしたらかっこよく見えるのか全部分かってる。
褒めた私の頭をポンッと撫でる直人。
その手の温もりだけじゃ足りない……
そんなことを思ってしまう私は哲也の彼女失格。
直人の頬に手を添えると視線が絡み合う。
そうやってずっと見てて欲しい。
私から目を逸らさないで欲しい。
指で頬を撫でながら少しだけ直人に近づいた。
息遣いが分かる距離で直人と見つめ合う。
「…すっげぇ物欲しそうな顔……」
余裕たっぷりな直人の顔と声に悔しくも図星で。
ダメだと分かっていても、止められない気持ちがあることを、私は初めて知ったんだ―――――
「欲しい…直人のこと…」