Secret3
「今日泊まってく?」
帰り道、哲也が優しくそう言う。
お酒を飲んだから酔い醒ましで二人で駅から歩いていて。
いつも通る噴水がある大きな公園を通りながら私の家へと歩を進める。
「ん〜もう眠い。えっちする体力ないかも〜」
「マジ?ゆきみ酒飲むと本当すぐ寝ちゃうなぁ!んじゃやめとく、今日は!無理やりしたくないし!」
「ええ、えっちが目的で聞いたの?」
「はは、違うって!けど酒飲んでるから理性がヤバイ。間違いじゃないけど、半分はそれも目的…。言っとくけどそこに愛があるからだぞ?」
知ってる。
そうやってちゃんと話してくれる哲也が大好き。
理性が利かなくて無理やり抱かれたことなんて今まで一度もない。
いつだって私のことを気遣って優しく抱いてくれる哲也。
「うん。ありがと…」
ちょうど噴水前で立ち止まると、哲也の顔が近付く。
「キスはいい?」
「うん」
私の返事を聞いてからチュっと哲也の甘いキス。
ググっと腰にかけた腕で私を引き寄せてほんのり開いた口にニュルリと舌をねじ込んだ。
「ンッ…」
スローで舌を絡める哲也のキス。
何もかもが蕩けそうになるこの甘いキスが大好きで。
さりげなく私の胸元に手を添えた哲也の胸元を押して距離を取った。
「胸触ったー」
「うわ、無意識だよ!」
「もう…」
「だってチューしたら次はおっぱいでしょ?」
「ここは部屋じゃないよ〜」
「ゆきみがいたら俺の頭ん中いつでもラブホ状態…今酒入っちゃってるしぃ〜。ん〜チューだけじゃ足りないよぉお〜」
ギュウって私を抱きしめる哲也。
酔っぱらうと甘え上戸になる哲也。
…―――嫌いじゃない。
でもお酒飲むと眠たくなっちゃうのが私の体質で。
「ベッドの上で寝ちゃうよ私…」
「だよね。ごめん。これ以上くっついてると危ないから送るね」
「うん」
漸く哲也の理性が治まった所でまた手を繋いで歩きだした。
部屋についてアパートで鍵を開ける私をまたギュっと抱きしめる。
ドアにトンって背をつく私を追いこんで壁ドンからのキスはいつものお決まりとおいうかお約束。
壁ドンが気いったらしい哲也は帰り際によくよくしてくれた。
深まりゆくキスを何とか制御して「またね」手を振って帰っていく哲也に手を振りながらも私はもう眠くて。
軽めにシャワーを浴びて冷蔵庫からポカリを出して一気飲みしていた所でLINEの着信が響いた。
…誰?
え、誰これ…
見ても知らないアイコンで。
でもその名前に見覚えがあった。
「直人?」
確かに”直人”って書いてある。
でも直人とLINEを交換してもいないし。
だけど鳴り続けるそれに普段だったら絶対に出ないんだろうけど、どうしてかこの時この電話に出ないと!って脳が反応したんだった。
右から左にスライドさせて着信を取る。
「…はい」
【ゆきみちゃん?】
たぶん、さっきの直人だって思った。
「…あの、」
【さっきの直人、分かる?哲也の友達の、直人!】
「うん、分かるけど、なんで?LINE交換してないよね?」
【あーゆきみちゃんトイレ行ってる時に哲也にID聞いた】
「…そうなんだ。何の用ですか?」
【ははっ、冷たいなぁ!ドア開けてくんない?】
「…――は?」
何、言ってんの、直人。
ドアってドアって…
コンコンってアパートのドアを微かに叩く音がする。
嘘でしょ!
【外、わりと寒くなってきたじゃん!俺風邪引いちゃう】
「うちの前にいるの?」
【いるいる。顔見せてよ?さっきは哲也がいたからあんま見れなかったし、話もできなかったじゃん!俺友達になりたいんだよね、ゆきみちゃんと…】
心の奥底で引っ掛かった”友達”ってワード。
でも電話に出た時にこの運命は決まっていたのかもしれない…―――
カチャっと鍵を開けてドアを開けると、さっきと変わらない直人の姿がそこにあった。