Vacation3


水着に着替えてコテージから出てきた。

普段見慣れた直人の裸体だけど、水着姿っていうのはわりと新鮮で。

思わず見とれる私に直人が手を差し出してくれる。

そのままスタッフさんの所に行って絵コンテを見る。



「ね、こーいうのって誰が考えるの?Dさん?」



砂浜で水を掛け合うシーンから始まる海編。

波に足を攫われてびしょ濡れになって二人、大爆笑。

からの、見つめ合ってドキっとするようなキスシーン。

キスなんてし慣れてるのに、この南の島ってだけで何だか無駄に照れて。

大きな浮き輪に一緒に入って微笑み合う。

シュノーケリングで魚見て、拾った貝殻を耳に当てて微笑み合う。



「これは全部俺!」

「…え、直人?」

「そう!俺がゆきみとしたいこと全部並べた」

「…これはなに?」



指差した場所には”貝殻水着披露”の文字。

半笑いで私を見ていて。



「直人、エロ目!」

「いやユーモアーだよ!たまにはいいっしょ?こんなお茶目な俺も!」

「いつもふざけてるじゃん!」

「え、どこがよ?」

「どこって全部。基本的に全部…」

「うん、まぁそれが俺だ!受け入れろって」



受け入れてるけど、貝殻水着は無理だから――!!

大声でそう叫んでやったらスタッフさんみんなに笑われた。


そんな風に笑いを交えて海の撮影が始まった。



「そういや初めてじゃない?ゆきみの水着って…」



若干目を泳がせながらもチラチラ私を見る直人。

超挙動不審ですけど。



「そうかも!てか海自体もう何年も行ってなかったなー私」

「マジで!?」

「うん。だって友達みんな結婚したり子供産まれたりで、やっぱり段々疎遠になりがち…」

「まぁ、そうだよね…」

「うん。親友ぐらいだよ定期的に逢うのは」

「家庭持ってたらそりゃ海なんて行かないよなぁ。んじゃ今日は行けなかった分全部楽しもうな?」



浮き輪の中でする会話に私は笑顔で頷いた。


その後シュノーケリングをつけて浮き輪から離れた時だった。

もう何年も泳いでなかったけど、勝手に泳げるもんだと思っていたんだ。



「ギャッ!!」

「え、ゆきみッ!?」



身体が動かなくて沈みゆく私の身体を直人の腕が引き上げた。



「ゲホゲホッ…」

「大丈夫かっ!?」

「ッ…直人ッ…」



ムンズってとりあえず怖くて手を伸ばして所構わず掴んだんだ。



「ウオッ…ちょ、ゆきみ…どこ触ってんの!?」



触れたのはどうやら直人の下半身だったみたいで…



「ごめっ…私泳げないみたいっ」

「だろうね。つーかわざと?今わざと触ったの?俺のこと誘惑してる?」

「わざと溺れるわけないでしょ!」

「いーや、わざとだね、俺に溺れてるって遠まわしに言っちゃってるんじゃないの?」



得意の顔でそんな言葉を投げた。

どうしても私にそう言わせたいんだって分かったけど…



「これ見るのは直人のファンだよ?」

「だって台詞は入らないもん」

「もんって…」

「うそうそ、冗談!ごめんね」



眉毛を下げてほんの少し困った顔の直人。



「いやね、意外と孤独なのよ俺達の仕事って。みんなでパフォーマンスはしてるけど、結局のところ自分一人の世界を作っているようなもんで。だから今すげぇ楽しくて。仕事でゆきみと一緒なんて最初で最後だろうからさ…。同じ時を刻むのってすごい貴重だよな…」



いつもとっても強い人だけれど、抱えているものの大きさは物凄い大きなものなんだって改めて思った。

その身体全部で自分よりも大きなものを笑顔で抱えているんだよね、直人は。



「ごめん」



ギュっと直人に抱きつく。

浮き輪に掴まりながらギュっと…



「ゆきみちゃん?」

「溺れてるのは直人も一緒でしょ?」



私の言葉に目を細めて笑った。


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