君に何度でも恋をする | ナノ

ざわつきの正体1


「おいどーした?ボーッとしてんぞ?」

「……え?」

「啓司のことでも考えてたの?」

「え、啓司!?」

「なんだ、違うのか」



目の前で晩酌している哲也。

大工な哲也は現場が早く終わるとだいたいうちに帰ってきてご飯を食べる。

今日も仕事が終わって帰る途中、哲也からLINEが入って。

だからご飯を作って一緒に食べてるわけで。

私を見て首を傾げる哲也。


まさか今になって良平くんと再会するなんて思わなかった。

別に今更どうこうなんてないけど、心がざわざわしてしまうのはどうして?




「てっちゃんさ…」



肉じゃがの白滝をお箸で摘んで口に運ぶと私は続けてジャガイモも口に運ぶ。

もぐもぐしてからゴクっと飲み込んで小さく息を吐いた。




「なに?」

「初キスって何歳だった?」

「…はい?初キス?」

「うん。中学生?高校生?」

「…あんま覚えてないけど…14とか15とかじゃん?」

「覚えてないの?初めてのキスなのに!?」




思わず身を乗り出す私に苦笑いの哲也。

そこに男女の違いがあるようで、何だか切ない。

良平くんも私のことは覚えていても、私とのキスのことは覚えてないってこと!?




「いやまぁ、本当は覚えてるけど…照れくさくない?妹にそんなはなs…」

「いいからどうなのっ!?」




哲也のシャツの胸倉を掴んで顔を寄せると、あからさまに避けられた。




「覚えてるよ、そりゃ…。あんまいい思い出じゃないけど。なんで?」




なんで?と聞かれて困った。

聞いた私が馬鹿だったよ…。

イイ獲物を見つけた!みたいに目をランランとさせる哲也の視線から離れて「あ、デザート買ったの忘れてた!」立ち上がって冷蔵庫の中のプリンを一つ手にした。

それを見て眉間にしわを寄せる哲也。




「おい、俺のは?」

「ありませんが」

「なんでねぇの?」

「なんで?って、最後の一つだったから…」

「んじゃそれよこせ!」

「え?たった一つのプリンを可愛い妹から取り上げるの?」




シレっと睨みつける私に哲也はもっとすごい目力で睨み返す。




「話題まで逸らしやがって。プリンに免じて流してやるからよこせよ」

「大人げない、てっちゃん!」

「…15の時、初めてだって思われたくなくて舌入れたら思いっきり嫌な顔された…。そのまま無理やり何度かしてたら女も慣れてきたけど…。あの顔はぶっちゃけ今でも忘れられない…」




知らなかったな〜。

哲也にもそんな苦い過去があったなんて。

いつだってモテ男だと思っていた哲也も、意外と可愛いとこあるんだなぁ〜。




「で、お前は?15?16?」

「…16。高ニの夏前…。一歳年下の子。委員会が一緒で仲良くなって…。一緒に帰ってる途中の公園のブランコで…ドキドキしすぎて恥ずかしくて、でも嬉しくて…甘酸っぱい…」




思わずあの日に脳内がフラッシュバック。

学生服の私達は確かに青春していた。

肉じゃがをお皿ごと口に流し込む哲也は食べ終わってから「ふうん」興味なさげに相槌を打つ。


だからなんだってお話なんだけど。

良平くんと再会をした私は、どうにも心がざわついていたんだ。




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