君に何度でも恋をする | ナノ

「好き」と言えなくて1


お風呂から出たら啓司からLINEが来ていた。

そこにはいつもと変わらない啓司の言葉があって。

私に内緒で健康食品を持っていったことが書かれてあった。それから、

仕事頑張れ!って…―――――

良平くんと二人でいた所を見られていないと分かると胸のドキドキがようやく収まった。

いけないことしてるって分かってる。

だけど止められなくて…私の心はそれでも良平くんを求めてしまうんだ。


翌日は快晴だった。

昨日の雨がまるで嘘のように雲一つない青空が広がっていた。

清々しい気分で会社に入る。

奥の席に座っていた良平くんが私に気づいて優しく微笑んだ。

目尻を下げて笑うその顔にやっぱり胸がトクンと高鳴る。


「おはよ、ユヅキちゃん」

「おはようございます」

「今夜空いてる?」

「…え?今夜?」

「うん。ちょっと付き合って欲しいとこあんだけど」

「…仕事ですか?」


私の問いかけにほんのり黒い笑顔を浮かべて「どうだろ」なんて答えた。

勿論ながら私の答えなんて決まっている。


「付き合います」


そしてそれが分かっていたであろう良平くんはその日、定時でこのフロアを出た。

健ちゃんは朝から外回りで忙しくて、定時であがる私とはすれ違い。

だからって訳じゃないけど、久々のアフター5に胸がときめく。

だってここ。

連れてこられたのはそう、フットサルコート。

ちゃっかりユニフォームに着替えた良平くんがコートで走り回っている。

そんな彼をコートの外から眺めている私は、はたから見たら彼の彼女に見えるのだろうか。

知らない人と笑顔で大好きなサッカーを楽しむ良平くんは、最高にかっこいい。

それだけで幸せだと思ったんだ。


「こんばんは!」


不意に話しかけられて、振り返ると女の人がいた。

え?


「黒沢くんの彼女さんですよね?」

「…え、あの…」

「ずーっと可愛い可愛いって言ってたんでみんな会ってみたくて!やっと会えました!私入沢の家内です、あ、ほら今シュート決めた」


視線をコートに向けるとポーンとボレーシュートを綺麗に決めてガッツポーズの人。

そこに良平くんも駆け寄っていって一緒に喜んでいる。

それからこちらに視線がきて。

私の隣に居る奥様に向かって笑顔で手を振った。

だからか、良平くんがちょっとだけ慌てたように走ってきて。


「リカさん、そいつに変なこと吹き込まないでよ?」

「あらいいじゃない!散々褒めちぎってたくせに」

「なっ、それはその。…ユヅキちゃん聞く耳持つなよ!」

「え?」

「あーこっ恥ずかしいっつーの」


髪の毛をワシャワシャ掻きむしって良平くんは照れ臭そうにコートに戻って行く。


「初恋の人なんですよね、ユヅキさん。ずーっと忘れられなくてやっと再会できたって、毎回試合が終わるとみんなでご飯に行くんですが、酔っ払っていつも褒めてました、ユヅキさんのこと!」


…知らないそんなの。

ほんと、ずるい人。

コートで子供みたいに走り回る良平くんを見て、胸の奥がカァーッと熱くなった。


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