君に何度でも恋をする | ナノ

啓司との未来1


「いっこ聞いてもいい?」



みんなが帰ったここ、散らかったら部屋の片付けをしている最中、哲也が真剣な顔で話しかけてきた。

折り紙で作った輪っかを壁から外しながらも、視線は私をとらえていて。



「なに?」

「アキラと付き合ってた?もしかして、あのユヅキを置いていったのって…アキラ?」



…真剣な哲也の表情に、背中にじわりと汗が滲む。

どうしよう、イエスと言うべきか、ノーと言うべきなのか…

黙ってしまった私を見て、哲也が小さく溜息を零す。



「マジかよ…」



言えない私の気持ちを読むのはお手のもの。



「…啓司は知ってんの?」

「…知らない、誰も。てっちゃんも知らなくていい…」

「あいつ、今さら何しに帰ってきたんだろ。もしかしてユヅキのこと取り返しに?」



薄々気づいてたけど…なんて続きそうな哲也の言葉に、私はそっと目を逸らした。




「何も変わらないよ、てっちゃん。良平くんとのことはもう終わったことだし、私は今啓司が好きだし…」

「そうだな、けど…ちょっと心配。お前可愛いから」



ふわりと口端を緩める哲也は身内ながらかっこいい。

私とっての一番は勿論啓司だけど、哲也だって贔屓目に見てもかっこいいはず。



「てっちゃんのがかっこいいって」

「知ってる。けどな兄貴として妹の幸せは絶対だから…なんかあったらすぐに言えよな?」

「うん、ありがと…」



学生のころは不良な哲也の妹だってことがすごく嫌な時期もあったけど、今は哲也以外の兄貴なんていらない。

そう思える。







「出張?私も、ですか?」

「当たり前だろ、担当者お前なんだから!明日から三日間大阪。宿はもうおさえてあるから準備だけしとけよな」



ポスって頭に落ちた良平くんの大きな手。

二人っきり?

仕事だからって割り切りたいけど、どうにも気持ちが追い付かない。

とはいえ、会社では至って普通で、むしろ紳士的に仕事をこなしている良平くんには、すっかりファンがついていた。




「健ちゃーん。お昼行きたい…奢ってぇ?」



背中合わせで座っている健ちゃんの大きな背中をピンって指で突くと、振り返ってニッコリ微笑んだ。



「いいよ、行こうか。あ、アキラも?」



まさかの言葉に私は慌てて首を左右に振って「二人で行きたい!」強引に健ちゃんを社内から連れ出した。

良平くんなんて一緒に来たら気が抜けない、気がして…



「今日は甘えん坊なの?」



クスって微笑む健ちゃんはスマートに私を歩道側に入れてくれて。



「そこ段差気をつけて」



なんて手を差し出してくれるけど、顔が濃いせいか、どこか異国の人種のようにすら思えて違和感ゼロだった。



「優しいな〜健ちゃん。てっちゃんさえ邪魔してなかったら健ちゃん選んでたかなー私…」

「いやないでしょ。ほらいい人止まりだからね俺」

「なんで?健ちゃん好きな人いないの?顔はかっこいいじゃん」

「…ほんと?かっこいい?」

「うん、普通に。てっちゃんも啓司も健ちゃんも、顔はみんな揃ってかっこいい!ってことはやっぱ中身に問題アリ?」



イシシシシ〜って笑いながら健ちゃんの腕に絡みつくとコツっとオデコを叩かれた。



「地味に凹むから。哲也もまだいないよなぁ〜。なんでだろね?やっぱユヅキのせい?」

「私?酷い…」

「シスコンは昔からだからなぁ、哲也」

「私は正直昔は嫌いだったけどね、てっちゃん達。不良で怖いから…」

「はははは、まぁ異様な世界だからねぇ、あーいうのって。若気の至りだよ…」

「私は至って真面目だったもので、不良って人種が苦手でした〜」

「すげぇ強いのに、哲也はユヅキのことだけは弱かったから、ある意味面白かったよ?」

「…いい。聞かない。過去はもう、いい…」

「…だね。あ、きた、ユヅキのピザ!うまそう…」

「食べていいよ健ちゃんも。どうせ一緒に食べようと思ってたから」

「優しいね、ユヅキは。ありがとう。あ、そういえば明日からアキラと出張、大丈夫?別に変な心配はないけど、啓司には言うの?」



健ちゃんの言葉に手を止めた。



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