君に何度でも恋をする | ナノ

回り道3


「俺、ユヅキの幸せを願えないと結婚なんてさせて貰えないじゃん、哲也に…。言えよ本音。怒りも怒鳴りもしねぇからさ。…けど信じてるんだ。必ずユヅキは俺のとこに戻ってくるって…」


ポンポンって啓司の大きな手が私のあたまを優しく撫でる。

確かに時間の流れと環境の変化は人の気持ちを変えさせる。

あれだけ悲しみと怒りが爆発気味だった啓司でさえ、こんな風に冷静に話せるのは少しの傷が癒されたのと、時間がたったからなんじゃないだろうか。

今なら本音を言ってもいいのかもしれないと、少しだけ思えた。

一つ大きく息を吐き出すと私は真っ直ぐに啓司を見つめた。


「ごめんね啓司。今でも良平くんを想っている…どうしても忘れることができない…」

「…―――そう、なんだ…やっぱ、俺じゃダメか、悔しいな…」


自嘲的な笑みを浮かべた啓司は、指輪を私に嵌めることなくしまいこんだ。

自分一人熱くなっているだけかもしれない。

でもいくら時間が経っても良平くんが私の中から消えない。

今でも苦しい。


「よかった、お前の本音が聞けて」


そう笑った啓司は、スッと立ち上がるとスマホで電話をかけた。


「俺。悪いけど後頼むわ」


え?啓司?

スマホを仕舞うと私の荷物を持って玄関へと誘導する。


「啓司あの」

「アキラ、今夜の便でアメリカに帰るんだよ。今行かなきゃ後悔する。だから行ってこい!ユヅキのパスポートも全部哲也に任せてある」


突然聞かされた言葉に戸惑いを隠せない。

アメリカに帰る?


「回り道させて悪かったな。お前達が次に俺の前に現れる時には笑顔で迎えるって約束するよ!」


何も言えない私の前、啓司のマンションのドアが開くと、哲也と健ちゃんが私を待っていた。


「時間ねぇから急ぐぞ」


哲也に腕を引かれて健ちゃんの運転する車に乗せられる。

手を振る啓司が角を曲がる瞬間手で顔を覆ったのが見えた気がした。

―――啓司、啓司、啓司…。

大好きだったよ、啓司のこと。


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