回り道1
嘘が下手な良平くんに「嘘つき」と言えなかったのは、本当の本当はこれでいいと思っていたからかもしれない。
私達が離れることで、丸く収まる…―――と。
大人になるってことは、こうして自分の気持ちもコントロールしていかなきゃいけないんだって…。
環境が変わると、気持ちも少しづつ変化するんじゃないかって…。
私は別の支社へと異動を命じられた。
裏で相当健ちゃんが動いてくれたんだって、思う。
この時期に異動してくるなんてわけあり?って、現場の人はそれでも私を優しく受け入れてくれた。
ふとスマホに目を向けると、そこには啓司からのLINE。
【今夜大事な話があるからうちに来て】
大事な話って言っちゃう所がやっぱり啓司らしいよね。
ふとした瞬間に良平くんを思い出して、逢いたくなる。
私達のくだした判断は大人として間違っていないのかもしれない。
だけど心が泣いているようで。
あれから啓司と普通にしてはいるけれど、心の中は良平くんばかりを想ってしまう。
「こんなんなら、逢わなきゃよかった…」
啓司のマンションを前に小さくそう呟いた。
合鍵で中に入ると暗くて、電気を付けようとしたら「そのままで、こっち来て!」中から啓司の声が聞こえて私はリビングへ歩いて行った。
料理上手な啓司はよくよく手料理を振舞ってくれる。
今日も沢山のディナーが並べられていて。
「お帰り、ユヅキ。座れよ」
「うん。すごいね、今夜も。こんなにいっぱい2人で食べれなさそう…」
私が座ると同時、啓司がスッと黒い小さな箱を私の前に差し出した。
…―――「け、じ…」これ、指輪だよね?
「僕と結婚してください」
シンプルなその言葉は、私がずっと待っていたもの。
だけどどうしてだろう、涙が止まらない。
嬉しいのか、悲しいのか、苦しいのか、分からない感情の涙がブワッと溢れて次から次へと頬を伝っていく。
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