君に何度でも恋をする | ナノ

プロポーズ3


TPOもなにもあったもんじゃない。

これがプロポーズというのならさすが啓司だと思った。

私は軽い放心状態で、数十分して啓司が出てくるまでの時間がほんの数分のように思えた。

なんてことないって顔で啓司が出てくると、私の髪をクシャっとして「痛くなかったし、」…そのまま会計の方へと歩いて行った。

支払いを終えて車の助手席で目を閉じている啓司を家まで連れて帰る。


「仕事、いいの?」

「え?」

「仕事、忙しいんだろ?」

「そう、だけど…」

「もう平気だからさ、会社行ってこいよ?」

「…啓司あの、さっきのって、」

「さっき?なに?」


覚えてないわけないし、いくら啓司だからって、私の言いたいことがわからないわけないと思う。


「結婚してって…」

「…ああ、うん。まぁ俺もあの場所で言う言葉じゃねぇなーって思って。また今度改めて言うからさ、それまで保留ってことで?な?」


クシャってまた私の髪を撫でる。

だけどそのままふわりと抱き寄せて。


「やっぱもうちょっと一緒にいたい…」


強く、強く、抱きしめられた。

だけど―――――「啓司、ちょっと待って」エントランスに見えた良平くんの姿に私は吃驚して啓司の腕の中から出た。

車を降りてそっちに駆け寄る。


「良平くん」

「あ、いや悪い、心配で…」


昨日健ちゃんに任せたっきり、良平くんからのLINEを開くこともせずにいた。

なんとなく啓司に申し訳ない気がして。

だから良平くんが私にどんなメッセージをくれていたのか分かっていない。


「アキラ?お前仕事は?」


車を降りた啓司が素っ頓狂な声を出していて。


「風邪ってケンチに聞いて心配して見舞いに来たんだよ、大丈夫?」

「はは、そっか、俺の心配か悪りぃーな。点滴打ったからもう大丈夫だよ。ちょーどいーや、ユヅキ連れてってよ、仕事忙しいんだろ?」

「え、けど…」

「いいから行けよ、」


腕を掴まれて良平くんの方にトンって押された。


「啓司?」

「またメールするな!ありがと、ユヅキ」

「…啓司」


薬を持ってエレベーターのボタンを押した啓司は、エレベーターに乗るとニッコリ微笑んで言ったんだ。


「プロポーズ、考えとけよ!」


笑顔で手を振る啓司が、エレベーターのドアで遮断された。



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