優しい嘘2
一晩中抱いてやるから…
その言葉通り、2人でこの部屋に戻ってからずっと、良平くんと離れることはなかった。
私に触れるその手は大きくて温かくてずっとこの手を離したくない…
そう思いたいけど、さっきの会話のせいか、なんだか啓司がチラついて良平くんだけに集中できない自分がどこかにいた。
もしかしたら良平くんにもそれが伝わっているかもしれない…そう思うとやりきれない。
身勝手な私の気持ちが、良平くんも啓司も苦しめている。
哲也の言葉を真摯に受け止めなきゃ。
このままでなんていられない。
啓司に伝えなきゃ、ごめんなさいって。
…――――――――――。
翌朝起きたら久しぶりに啓司からLINEが入っていた。
久しぶりに思うのはきっと私だけで。
ここ数日の良平くんとの時間が自分の中でこんなにも濃いものだったんだって。
良平くんの運転で一度家まで送って貰った。
着替えて支度している間、うちのリビングで哲也の挽いた珈琲を飲む良平くん。
一昨日の喧嘩が嘘みたいに笑いあっている2人を見て少しだけホッとした。
「今日現場忙しいから俺遅い。アキラユヅキと飯食ってやって」
「ああ、分かった」
「てっちゃん酔い覚めた?」
「とっくにな!」
絶対にご飯を一人で食べることがないのは、哲也がいつも気を利かせてくれているからだって。
自分が一緒に食べれない時に、啓司であり、健ちゃんを私に託していたから、その中に良平くんが仲間入りしたことがやっぱり嬉しい。
「健ちゃん泊まらなかったの?」
「今日早いって言ってたよ」
「あーケンチ一本打ち合わせ入ってて直行って言ってたわ、そういや。準備できた?行ける?」
良平くんが煙草を灰皿で潰してニッコリ微笑む。
ネクタイをキュッと首元でしめるその姿にただ胸が熱くなる。
不意に哲也と目が合うと、変な顔で軽く睨まれた。
「行ってくるね、てっちゃん」
「おー。頑張れよ」
「うん」
スって私に差しだされた大きな良平くんの手。
掴まるとギュッと指を絡めて歩き出す。
リビングを抜けて玄関を出る直前、「ユヅキ」聞こえた良平くんの声に顔をあげるとちゅうっとグロスの塗った唇にキスが落ちた。
「ごめ、我慢できなくて」
困った様に目尻をさげて笑う良平くんの唇についたグロスを指で拭ってあげた。
「大好き」
「俺も。…行くか!」
肩に腕をかけて私を護るように外に出た。
大きな背中にこの先もずっとついていくんだって、そう思っていたのは、私だけだったのかもしれない。
幸せな日々はいとも簡単に崩れるなんて…
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