呼び出し1
「あ、ねぇ、良平くんさ、もしかして久しぶりだった?」
「…え?」
腕に抱きついた私は良平くんの耳元に唇を寄せる。
背伸びをして彼だけに聞こえる声で囁いた。
「余裕がなかったのは相手が私だったから?それとも久しぶりだったから?」
冗談でそう聞いた。
「最初すぐイッ…―――でしょ?」
「た」って言葉をあえて発音しないでそんな問いかけ。
私の言葉に目を大きく見開いてパコンと頭を叩く。
勿論軽く、痛くない程度に。
「…―――どっちもだよ。ユヅキちゃんだったし、いつぶりかも忘れたし。つーかずりーな俺に合わせてくれちゃってさ…次は俺がガンガンリードするから覚えとけよ」
何気ない良平くんの「次」って言葉に自然と頬が緩んだ。
日用品売り場で下着を手にすると「これもユヅキちゃん家に置かせてよ」なんて冗談。
「さすがに無理か。俺ん家にユヅキちゃんのもん置くのは構わねぇけど、哲也いるし無理だよな」
そもそもうちには啓司の歯ブラシも健ちゃんの歯ブラシも置いてある。
合鍵を持ってる二人はうちの出入りが自由だし。
「良平くんのも置きたいな」
歯ブラシを手に取る私の頭をポンポンって撫でる。
「俺ん家に置くからどれか選んで?これ?」
子供用の歯ブラシを持って私に差し出した良平くん。
「もう、それ子供用!私こう見えて列記とした女なんだから!」
「知ってる。すげぇ女だよ、ユヅキちゃんは」
肩を抱かれて良平くんに寄り添う。
胸がキュッとして、こうしている最中でも良平くんへの想いが溢れてしまいそうで。
「まだ帰りたくない…」
「今日も俺ん家泊まる?」
「うん。泊まる、いい?」
「んじゃ色々買ってやる」
無駄になるかもしれない日用雑貨を、それでも買ってくれると言う良平くんに、私は何も言えなかった。
嬉しい半面、どうしたらいいのか分からない不安で押し潰されそう。
笑顔の啓司が浮かんでは消えていく自分の心の中がどれ程汚く濁っているのか、考えると良平くんの手すら握れない。
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