君に何度でも恋をする | ナノ

雨に隠れて1


【ごめん今日も残業だ。健ちゃんが送ってくれるから心配しないで。今の仕事が一段落するまで会うの待っててくれるかな?本当にごめんなさい】

【おう分かった。俺のことは気にしないで仕事頑張れよ!】

啓司とのLINEのやり取りを見て深く溜息をついた。

毎日遅くまで残業している私を本気で心配している哲也。

確かにここんとこ仕事が忙しかった。

私にしては珍しく忙しくて。

…良平くんが来てから仕事が忙しくなったと言っても過言ではない。

だけど…―――「あれ?まだいたの?」カタンとフロアに顔を出したのは良平くん。

いつもながらスーツをビシッと着こなしているその姿はプライベートのラフな感じなんて微塵も見えない。


「…はい」

「今日は天気も荒れるしもう帰りなよ。俺送るから」


ネクタイを緩めてニッコリ微笑む良平くんに、悔しくもドキドキする。


「…うん、ありがとう」


2人で駐車場に行って良平くんの運転する車の助手席に乗った私を真っ直ぐに家へと届けてくれる。

車内はレゲエの音楽がかかっていて、色々改造された車は完全にプライベート臭が漂っている。

咥え煙草で運転している良平くんから目を逸らして窓の外をずっと眺めていた。


「…ユヅキちゃん?」


不意に名前を呼ばれて振り返る。


「啓司、元気?」

「うん」

「そっか。よかった」


…あの日以来一度も啓司とは会っていない。

会っていないけどいかにも会っている風に言ったのは良平くんのせい。


「着いた、お疲れ様、ユヅキちゃん」


窓の外から良平くんに視線を向けた。

煙草を灰皿に押し潰して缶コーヒーを一口ゴクリと飲む。

喉仏が上下に動いて強烈に男を感じた。


「着いたよ、ユヅキちゃん?」


分かってるわよ、そんなの。


「良平くん」

「ん?」

「良平くんの気持ちが分からない」


…馬鹿な女の私はそんなくだらないことを言い放った。

啓司の彼女って自分の立場を完全に無視して。



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