瞳を閉じたら1
飲ませて…ってまさか、口移し?
妙に冷静な自分がいる反面、胸の鼓動は吃驚するくらいに高鳴っている。
ダメだって頭の中で警告音が響いているような気がした。
私のせいでお酒を浴びせてしまった良平くん。
目の前で呼吸を荒げて苦しそう…
錠剤を口に含んだ私は、そのままペットボトルの水を口に入れてそっと良平くんに近づく。
薄ら目を開けた彼は、ほんの少し口元を緩ませて私の頬に手を添えた。
熱と酔いで震えた手は火傷しそうに熱い…
目を開けたまま私は覚悟を決めて良平くんの口に触れた―――
―――水と一緒に錠剤も口の中に流すと、やっぱりしまりのない口からは水が垂れたけど、それでも良平くんはゴクっと喉の音を立てて錠剤を飲み込んだんだ。
だからすぐに良平くんから離れようとしたら、力なんてないはずなのに、腕をやんわりと掴まれた。
「次に目開けたら全部忘れるから…だから――」
なんて言葉だろうって。
こんなにドキドキしたのはいつぶりだろうか?
こんなにドキドキさせられたのはいつだっただろうか?
…啓司を愛しているのに、このドキドキはなに?
啓司がくれた言葉でドキドキしたことはあっただろうか?
いつだって優しくて温かくて癒されて安心できて…
いつだって啓司の言葉は私を幸せな気持ちにしてくれていたというのに、こんな風に胸が高鳴ったのはもう、覚えていない…―――
「ずるい、今さら…」
「目、閉じて…」
指で目尻に触れた良平くんに流されるまま、私はそっと瞳を閉じた。
「ユヅキ…」
唇が触れ合う前に名前を呼ばれたことで、瞳の奥の啓司が消えてしまった。
自分がこんなにも、我慢のない女だとは知らなかった。
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