君に何度でも恋をする | ナノ

啓司との未来3


「機嫌いいね?なんかいいことあった?」



新幹線の中、良平くんが隣の私を見てそう言った。



「別に何もないよ。あ、啓司が美味しいもの食べてこいってお金くれた。足りない分は良平くんに出して貰え!ってさ」

「ちゃっかりしてんなー啓司!何食べたいの?今夜は立食だから飲み過ぎんなよな?この前みたいに酔っても今日は啓司いないからな。介抱するの俺だし、それ考えて飲んでよ?」

「分かってるよーだ。パーティー面倒くさい」

「仕事だ、こーら。しっかりやれよ?」

「はーい」



啓司とうまくいってることが、こんなにも私を心地よくさせているんだって。

気にしていたのは私だけで、良平くんはきっと私のことなんてもう何とも思っていないんだって、そう思うと一人笑いがこみ上げてくる思いだった。




「土田くん、土田くん」

「あ、すみません。どれとりますか?」



…最悪。

お偉いさんばっかりの立食パーティーなんてくるもんじゃないな。

なんて思ってはいるものの、これも仕事のうちだと思わなきゃ。

はぁ、憂鬱。

啓司に逢いたい…

受け皿を渡したその時、私の手にオッサンの手が重なる。

わざと?

完全に酔っているであろう、大手の専務さん。



「どうだ、今夜…」



それからまるで私を抱きしめるように横から腕に手を回してそう言うんだ、今にも耳にキスできそうな至近距離で。

一気に寒気と吐き気が身体を押し上げる。

こんなオッサンに抱かれる為に入社したわけじゃないわよ!

そう言いたいけど、それが通用しないのがこの世界だった。



「上に部屋をとってあるから、お開きになったら来なさい」



そう言うと専務は私のお尻をふわりと手で撫でた。

その手が離れるか、の所で「専務、土田は酒が飲めない口なんです、申し訳ありません。この黒沢が気の済むまでお付き合い致します!」良平くんが後ろ手で私を押して間に入ってくれた。

専務に言葉を発せる前にその場にあったワインを一気に喉に流し込んだ良平くん。

それを見て専務は少しだけ気を良くしたのか、私から視線を放した。

ポンって良平くんが私の腕に触れて「先に部屋戻っとけ」そう言うんだ。



「でも…」

「安心しろ。俺酒強いから!嘘だと思うなら啓司に聞いて?終わったら連絡するな!」



なかば無理やり良平くんに押されてエレベーターに乗せられた。

仕方なくロビーに行ってとりあえずは奥にあるカフェに身を置く。


…助けてくれたんだよね、良平くん。

優しいとこあるじゃん。



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