昔話1
「昔の話だよ。もうとっくに終わってるから…」
何故か丁寧に私にそう言う健ちゃん。
いつもながら優しい顔がほんの少し困った風で。
首を傾げる私にニッコリ微笑んで言うんだ。
「ユヅキのことがずっと好きだったの、俺。昔ね、昔!」
昔って、念を押して。
啓司も哲也も知っていたんだろう、なんてこと無いって顔をしている。
だけど私にとっては初耳で。
「知らない!聞いてない!」
「いやまぁ、あの頃からてっちゃんユヅキのこととなると絶対譲らなかったし。啓司もユヅキの連絡先知るのに半年かかったぐらいだよな?」
「そうそう、哲也のシスコン半端ねぇよ!」
ケラケラって笑ってるけど。
てっちゃんそれ、酷くない?
「あー?今さ、なかなか彼氏ができなかったのは俺のせいとか思ってんだろ?」
啓司に寄り掛かる私の鼻の頭をツンって指で弾く哲也。
「超思った!」
「違うから!ユヅキが高校生の時にした失恋の痛手が癒されるまでって、お前のこと守ってあげてたんだからな?」
哲也の言葉にドキッとして思わず良平くんを見た。
当たり前に目が合った私達。
失恋をしたことは知られていたけど、さすがにその相手までは知るまいって。
まさか良平くんだなんて誰も思わないよね。
「あまりにてっちゃんが怖いから諦めたらいつの間にか啓司と付き合ってたから正直なんで?って思ったけど…。でも今のユヅキが幸せそうだから俺は黙って身を引いて正解だって。つーか酔ってなきゃ絶対言わないからこれ!ユヅキも今更気にしないでね?」
スッと健ちゃんの大きな手が伸びてきて私の頭をポンポンってする。
いつだって優しいこの手は、あの頃ずっと私に差し出されていたんだって思うと少しだけ胸が痛かった。
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