分厚い壁1
「これが酔い醒まし?」
「不満?」
「不満…」
少し歩いた所にある公園の噴水。
そこに座って煙草を吸う良平くん。
「啓司だったんだ、彼氏」
「…え?」
「悔しいな、なんか」
フワリと頬に触れる良平くんの指。
ドクンと胸が高鳴る。
熱い身体に冷えた空気。
「何言ってんの今更…」
「ほんと今更」
「興味ないんでしょ、人の女には」
「ないよ。基本的には」
…何が言いたいの?
困る、こんなシラフじゃない時に。
別に抱きしめるでもキスをするわけでもないけど、良平くんの指は私の頬を軽く撫でていて、それを少しだけ心地よいと思っている私がここにいるなんて。
離して!って、言えない自分がここにいるなんて。
きっと酔ってるから。
シラフじゃ許されないことも、お酒で理性のタグが外れてる…
私に限らず…――――「覚えてる?初キス…」良平くんの言葉にドクンと胸が脈打った。
「覚えてない」
そう言い張る私をクスっと笑う余裕たっぷりな良平くん。
だけどその質問に、良平くんがちゃんと覚えていたってことが本当の本当はちょっとだけ嬉しい。
私だけがずっと引きずっていたのかと思っていたから。
「ごめんな、いきなりいなくなって。遊びとか仕事とか、夢中になるもんが目の前にあるとすぐ頭の片隅にいっちゃってさ、女のこと。そこそこ他の女とも付き合ってきたけど、ユヅキちゃんを越えるいい女なんていなかったわ…」
「良平くん?」
「いつだって、片隅にはユヅキちゃんがいた。…たぶんい」
「やめてっ!」
慌てて言葉を遮った。
だってそんなの今更聞きたくない。
本当に今更で。
聞いてしまったら自分が嫌な女になってしまいそうで。
「私は啓司を愛してる!前を見てるの。今を生きてるの。良平くんは終わった過去だよ。お願いだからかき乱さないでよ。思い出に浸らないで…」
立ち上がった私はそのまま一人でマンションへと帰った。
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