ざわつきの正体3
健ちゃんが完全に見えなくなったのを確認して私は一つ息を吐き出す。
壁に寄りかかって腕を組んでる良平くんは、長い足をかっこよく組んでいる。
「アキラって誰?…あなたは良平くん、だよね?高校の時…」
「付き合ってた?」
ふわりと私の髪に触れる大きな手。
付き合っていたのかどうかも分からないぐらいの短い思い出。
だけど確かに私の胸には残っていて…―――あなたの中にも残っている?
「うん…そう。私達…」
「俺ってほら、黒沢じゃん!黒沢って言ったら、世界のクロサワアキラっしょ!だから俺、ガキんころからずっとアキラって名乗ってた…。学校以外では…。ユヅキちゃんの前ではただの良平だったけどね」
自分を指差してあっけらかんと笑う良平くん。
なんかずるい、そんな言い方。
知らなかったこと、怒れない。
むしろ、ちょっと喜んでる?私ってば…。
「私が哲也の妹だって…」
「この前気づいた。ごめんね、黙ってて。騙してたつもりじゃないけど、ユヅキちゃんの前ではそのままの俺でいたくて…」
「なんでいきなりいなくなったの?なにも言わずにいなくなって酷いじゃない…」
あれから私がどれだけ寂しかったか…。
心にぽっかりと穴が空いてしまったようで。
啓司を好きになることだって物凄く時間がかかった。
全部全部、アキラのせいだったなんて。
「留学が決まって。急で何も言えなかった。ちょっとかけてたんだ、戻った時にユヅキちゃんが俺を待っててくれないか?って…」
あり得ない!!!
絶対騙されない!!!
てゆうか、今さらのこのこ戻ってきて、どういうつもりよ!?
思わずジロリと睨みつけた。
「怒るなよ。せっかく逢えて嬉しいのに…」
優しく言われると、どうにも怒れなくて…。
困った顔で目を逸らした。
「何考えてるのか分からない、良平くん…」
「彼氏できちゃった?」
キュっと指先を握る良平くんにドキっとする。
浮かんだ啓司の顔に良平くんの手を解いて、「とっくにできてるわよ!」そう迷うことなく答えた。
ほんのり目を大きくあけて「マジで?」なんて言うんだ。
「大マジ!別れるつもりないから。結婚したいと思ってるし、私は」
「そっか、おめでとう!ユヅキちゃんが幸せならそれにこしたことはないよ。祝福する!」
え?拍子抜けなんだけど。
そりゃそれでおおいに構わないけど…
「寂しそうな顔してる?奪って欲しかった?要望なら奪ってやろうか?」
…昔のピュアな良平くんはどこ?
私に触れるのだっていっぱいいっぱいって感じで可愛かったのに…。
なにこの憎たらしさ。
「カケラも思ってないわよ」
「そりゃ残念。いつでもその気になったら言えよ?」
前髪を指で退かして目の前に良平くんのドアップ。
え!?
真っ暗になったと思ったらオデコに柔らかい感触…
「明日の泊まり、楽しみにしてる」
壁に背中をドンって押し付けた私を見てクスクス笑いながら出て行った。
信じらんない、この男!!
なんともいえないざわざわ感だけが私の周りに残っていたんだ。
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