やきもち女。
朝一でロスに飛んで色んな服を買い付けて来た。
たまに急ぎの仕事が入ることもある俺は常にパスポートを持ち歩いている。
今朝も急に狙っていたものが入ったって連絡を貰って朝一で飛んだ。
時間が無いからって、トンボ帰りだけど。
とりあえずブランドのSNSにあげるとなかなかの反響で。
ただ一人を覗いて…
「なんだこれ」
あきらかに場違いなコメントを入れてきたのは、俺の最愛の恋人ゆきみ。
白昼堂々浮気とはいい度胸?
いや浮気じゃなくて仕事だろ、どー見ても?
…もしかして女と一緒に写ってるのが気に入らないのか?
そんな可愛い奴だったか、アイツ。
思わずニヤついたものの、次の文章を読んで目ん玉飛び出そうになる。
「待て待て!」
思わず声に出すと周りの人の視線を集める。
何がどーなって、隆二と浮気になるんだ?
意味が分かんねぇ。
浮気はそっちじゃねぇか!
しかもそのコメントに対してまた無駄に書き込みしているギャラリー。
俺、恥晒しじゃねぇ?
たく、一体何をどう勘違いしてんだよ、馬鹿女。
仕方なく電話をかけるものの電波の届かない機械的なアナウンスが流れてくる。
あのやろ、電源切ってやがる!
冷静な俺はそのままえみに電話をかけた。
【はいはい?】
出たのは男で。
聞いたことある声だな……って、岩田しかいねぇか、このやろ。
「えみに変わって?」
【ゆきみさん一週間ヤラせない!って言ってましたよ?】
それを言いたくてわざわざえみの電話に出たであろう岩田が少々憎たらしいけど…。
「……分かった」
【直人くーん、いつ帰ってくるの?】
「ああ、えみ。これから飛行機乗るんだけど、ゆきみは?」
【今隆二と帰っていったわよ。今夜は諦めた方がいいわねぇ…】
頼みの綱のえみの言葉にがっくり肩を落とす。
そういわれても彼女の浮気を見過ごす彼氏なんて世の中いねぇだろ。
「頼むよ止めさせて?浮気してないから。なにをどう勘違いしてんの?アイツ」
【ただの可愛いヤキモチよ。直人くんゆきみに言わずにそっち飛んだでしょ?トンボ帰りかもしれないけど3日はかかるんだから言ってあげなきゃじゃない?】
なるほど。
えみに言われてアイツが怒ってる理由が分かった。
確かに急なスケジュールで連絡も忘れてた。
一人が長かったから女と付き合うルールも忘れてるんだろうな、俺。
自業自得か。
でもまぁアイツにとって俺がちゃんとそーいう存在であるってことが分かったのは嬉しい。
ずっとお互い意地を張っていた俺たちはまだ、甘え方も分かっていない。
「今から帰るって伝えて。ゆきみ電源切ってるから。隆二の方にでも言っといてよ」
【分かった。早く帰ってきてね?】
「あぁ」
だから俺は長旅を経て空港につくと、そのままゆきみ達の住むシェアハウスへと向かった。
付き合ってすぐに渡してくれた合鍵で玄関を開けると、バイヤー土田さんと美月ちゃんがそこにいた。
「あ、どうも」
「片岡さん!?」
「今帰国?」
すげー驚いてる美月ちゃんとは打って変わって冷静な土田。
なんだこいつら、そーいう関係?
「そうっす。美月ちゃん隆二も来てるか分かる?」
「今市隆二くんなら、えみ先輩に追い出されてました。ゆきみ先輩待ってますよ!早く行ってあげてください!」
「サンキュー美月ちゃん」
土田に頭を下げて俺はゆきみの部屋をノックする。
コンコン…
ガチャってドアが開いてゆきみが俺にふわりと抱きついた。
甘い香りとゆきみの温もりに思わずその場で抱きしめ返す。
「ただいま…連絡しなくて悪かった」
「………」
無言のゆきみ。
てっきり怒って怒鳴り散らされるのかと思ったからちょっと拍子抜け。
「浮気なんてしてないんだけど」
優しくゆきみの髪を撫でてほんの少し距離を取る。
柔らかい頬を指で撫でて顔を覗き込む。
ジッと俺を見つめるその顔はちょっとだけブスっとしていて、これはこれで可愛い。
ゆっくり顔を寄せると、触れ合う寸前でゆきみが俺の口を手で抑えた。
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