キスに免じて。
「先輩…?」
「うそうそ、冗談。元カレにヤキモチとかいい大人のすることじゃないよねぇ…。ゆきみちゃんは俺のものなのに…」
「先輩、不安?」
私の問いかけに、前を見ていた視線をほんの少しこちらに移した。
その顔には不安とは書いてはいない。
でも…―――「不安じゃないけど、ちょっと心配はしてる」…心配?
鬚を軽く触るのは大輔先輩の癖で。
片手でハンドル回しながらも鬚を触っている。
「あんなイケメンと付き合ってたから、たまーに俺でいいのかな?って思ったり?いや俺も昔はそこそこイケメンって言われてたけど、やっぱ歳は誤魔化せないし…」
「大輔先輩の方がずっとイケメンです!岩ちゃんは確かに綺麗だったけど、私がずっと愛してるのは大輔先輩だけです!」
…興奮気味で言った自分に、思いっきり後からついてくる羞恥心。
だけど、せっかくのお誕生日にモヤモヤしていてほしくないし。
でも言いたいことはちゃんと言って欲しい。
私の言葉に嬉しそうに微笑んだ大輔先輩は、「ついた」そう言って車を止めた。
MOAIの駐車場なんだけど、ここ!
「え、先輩?」
「ん?」
「ここMOAIだよ?」
「うん。飯奢ってよ?」
「え?飯?プレゼントは?」
「うんだから、飯奢って…」
「ダメよそんなの!やっぱり先に買っとくべきだった〜。先輩と二人で選ぶのも楽しそうって思ったから…」
「いや俺楽しかったよ。ちょっと顔あげてこっち見て?」
クイって横から伸びてきた先輩の大きな手が私の顎を軽くもちあげる。
目の前に大輔先輩の顔がきて、そっと目を閉じる。
チュってリップ音が鳴る重ねるだけのキス。
それじゃ物足りない…
「ンッ、大輔さん…」
「ゆきみ…」
ガバって抱きしめられて舌を絡めとられる。
情熱的な大輔先輩の熱いキスに頭の中が真っ白になる。
狭い車内で、色んな箇所がカタンってぶつかるけど、それでもこのキスを止められない。
先輩、好き。
大好き。
ずっと一緒に居たい…
想いが溢れて止まらない。
でもキスで塞がれて言えないから、ひたすら心の中でそう言いながら、唇を味わう。
このままスイッチ入っちゃいそうな自分を抑えるのが必至で。
なかなか終わりにできないキスを何度も何度も繰り返す。
今日は気温も低いのにここは熱くて汗すらかきそう…
「ン、先輩…」
「どうする?帰る?」
耳を甘噛みしながらそんな言葉。
遠のきそうな意識で先輩を見る。
「きっちり奢ります!」
そう言うと、プって大輔先輩が吹き出した。
「えー行くの?だって中に岩ちゃんいるかもよ?」
「行きます!今日は岩ちゃんのこと忘れます私!だから先輩も忘れてください!」
「分かった、ゆきみちゃんのキスに免じてそうしてあげる。だからもうちょっとだけ、ここでキスしよ?」
「…うん」
ふわって大輔先輩の腕に抱かれて、唇が重なる。
くすぐったい髭ももう慣れた。
―――結局、私達がMOAIに顔を出したのは、車を停めてから1時間も後だったけど、大輔先輩の為に集まってくれていたみんなと、楽しい時間を過ごしたんだ。
*END*
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