独り占めしたい。


「俺ん家にも連れて行きたくねぇな…」




今日だけは誰にもゆきみを見せたくなかった。

こんなボロボロなゆきみを誰にも見せたくねぇし、触らせたくもねぇ。

どっかねぇかな、2人きりになれる場所。

とりあえず俺は兄貴に電話をかける。




【おお直人。彼女とうまくいってる?】




軽快な哲也の声に若干の苦笑い。




「空いてる部屋ない?連れて帰りたくないんだけど、今日は」

【あるよ、今どこ?】

「あーオンナん家の近く」

【んじゃLINEしとくからそこ使えよ】

「助かる」




電話を切るとゆきみが顔を上げた。

泣き腫らして目が真っ赤に腫れてる。




「直人くん?」

「んー?」

「今の哲也くん?」

「そー。部屋貸してくれるって。俺今日はゆきみのこと独り占めしたい。誰にも見せたくねぇし、触られたくねぇんだけど…」




俺の言葉になんでかまた泣きそうな顔で。





「それ以上泣くとブスになんぞ?」

「だって直人くんが泣かせるんだもん」

「いや俺なんもしてねぇし」

「したよ。私のこと守ってくれて、助けてくれた…。誰にも言えなくてずっと一人で。なんでうちはこうなんだろう?って苦しくて、でも一人で生活できなくて、いつも逃げ出したかった…」

「もっと早く見つけてやりたかった、お前のこと。ごめんな?」




ぶんぶん首を振るゆきみはやっぱり泣いてて。

その涙を指で拭う。





「直人くん、好き…」

「……は?」

「本当は昨日からもう好きだった…私を選んでくれたあの瞬間から…」

「そう、なの?」

「私のこと、好きになって?お願い…」




…好きに、なれる?

いや、俺も、一緒なんじゃねぇかな。




「俺も、あの瞬間からお前のこと好きだったかも。ゆきみ…」




俺を見つめるゆきみの頬を撫でると、目を細めた。

ドクンと心臓がうごめいて、心拍数が一気にあがる。

もうオンナに興味がねぇなんて、言えない。

俺はこいつが欲しい―――




「誰にも渡さねぇ、ゆきみのこと」




生まれて初めてのキスは、涙味で塩っぱめだったと思う。



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