一緒に抱えてやる。


翌日、学校帰りにゆきみの家に行くからって、兄貴のクラスに迎えに行く。

噂は既に広まっているようで、俺が教室に入るとみんなの支線を一気に集めた。




「兄貴来てなかった?」

「うん。学校には来てないみたい」

「そっか。んじゃ行こうぜ」




スッと手を差し出すと照れたように俺の手を握り返す。

完全に【ナオトのオンナ】ってレッテルがゆきみに貼られた。




「苛められたりした?」

「へ?」

「いやなんか女の嫉妬は女にいくんだろ?だから、」

「アハハ、直人くんのファンの子から?なんであの女が彼女なの?って、こと?」

「まぁ、そう…一応そーいうのあったらちゃんと言えよ。俺が話つけるから」

「大丈夫!心配してくれてありがとう」




ギュッてゆきみが俺の腕に巻きついた。

嬉しそうに笑うその顔はやっぱり可愛い。

それが好きかどうかは、まだ別物。

まだ違う。




バイクに乗せてゆきみの家まで行った。

鍵を開けようとして「あれ、いるかも…」そう呟く。




「親帰ってる?」

「かもしれない」




ガチャッとドアを明けてゆきみがひっそりと中に入った。

その後をついていく俺。

だけど、寝室の前で立ち止まったゆきみは、悲しそうに振り返った。




「どうした?」

「今ダメ。男きてる…出直そう、直人くん」




…不意に浮かんだ嫌な予感に俺は顔を歪ませた。

なぁそれって親のやること?

飯の準備もできねぇのに、ふざけんなよっ。

俺は止めようとするゆきみを無視してそのままズカズカと中に入ってく。

寝室のドアを思いっきり開けたんだ。




「直人くん、止めてっ!」




もう遅せぇよ、ゆきみ。

真っ暗な部屋、ベッドの上で重なってる男女を見て俺は睨みつけた。




「なんだてめぇ」




男が威嚇してくるけど怖くもなんともねぇし。

母親をジロリと睨み付けると、逆にゆきみが睨まれた。

だから身体を入れてゆきみを後ろに隠した。




「おばさん、こいつ俺がもらうよ。いいよな?」

「なんなの、あんた?」

「可哀想なことしてんなよ。ゆきみが毎日どんな気持ちで冷たい飯食ってると思ってんの?産み落としたならちゃんと責任持って愛情与えろよ、親なら。男遊びする前にやることねぇのかよ!」

「あんたに関係ないでしょ!?早く連れていきなさいよ!」

「言われなくてもなぁ。こいつ俺ん家で生活させる。文句はねぇな?」

「ないわよ」

「荷物まとめろ、ゆきみ」




俺の言葉に泣きそうな顔でゆきみは渋々荷物を鞄に詰め込んだ。




「連絡先」




俺の名前と住所、電話番号が書いた紙をテーブルに置くと、そのままゆきみの腕を掴んで外に出た。

小さく震えてるゆきみをその場で抱きしめる。





「普通泣くだろ、あんなの見たら。我慢してんなよ。俺が一緒に抱えてやる。もう一人にしねぇから、安心しろ」

「…直人く、ん」




ポンッポンッって背中を撫でてあげると、ゆきみが初めて俺に感情を見せた。

堰を切ったように流れる涙をただずっと受けとめていたんだ。




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