乙女心が分からない。
その日、そのままゆきみを俺ん家に連れて帰った。
案の定、兄貴は帰ってもこねぇで。
ただ妹の樹里亜は、ゆきみを見て嬉しそうな顔で挨拶をした。
「直ちゃんでいんですか?」
なんてど失礼なこと言いやがって。
男には話せないことも、ゆきみになら話せるものか?と、二人が並んだ姿を見て少しだけ微笑ましく思った。
親父とお袋はそんなゆきみを歓迎した。
「冷たい飯一人で食わせたくねぇ」
俺がそう言ったらお袋は涙ぐんでゆきみを抱きしめた。
他の家庭がどんなかなんて知らねぇし興味もねぇけど、ゆきみのことはちゃんと守ってやんなきゃって。
確かにそうかもしんねぇ。
―――――守るもんがあると、少し強くなれる気がした。
「直人、ちゃんとこれを使いなさい。一度足りとも疎かにはするんじゃないぞ」
「……分かってるよ」
「それから、ちゃんと彼女のご両親にも挨拶に行きなさい。うちで暮らすのは構わないから、ご両親に分かるように一緒に挨拶に行きなさい」
「ああ、分かってる」
実の親父にコンドームの箱を大量に貰えるなんて、うちぐらいかもしれねぇ。
「てっちゃんも早く彼女連れてこないかしらねぇ」
お袋の呟きに俺は苦笑いでゆきみの待つ部屋に戻る。
ドアを開けてとりあえずコンドームを机に投げた。
それを見たゆきみが口をポカンと開けていて。
「ヤル気満々?」
「違げぇ。親父がちゃんとしろって。まぁ息子にこれ渡す親が他にいるかは知らねぇけど…」
ブハッて俺の言葉に笑うゆきみ。
「俺がお前に愛を教えてやる。ゆきみのことマジで好きだと思わない限り手出さねぇから安心しろよ。だからお前もゆっくり時間かけて俺のこと好きになれよな」
「ありがとう」
ポンッて頭を撫でるとゆきみが嬉しそうに微笑んだ。
「直人くん、お洒落だよね。服ありすぎじゃない?」
「好きなんだよ、そーいうの。そういやお前学校どこ?」
「え、同じだよ。哲也くんと同じクラス」
「え、マジで?んじゃ毎日一緒にいれんな」
「……うん。眠くなってきた」
「寝る?」
「ん。直人くんは?」
「寝る」
ベッドにもぐるゆきみを壁側に押し当てて一緒に入った。
元々でかいサイズのベッドだけど、やっぱりちょっと違和感。
壁側向いてるゆきみに少々イラつく。
「なんもしねぇからこっち向けよ?」
「うんでも、恥ずかしい…」
「なんで?」
「なんでも。直人くんには乙女心が分からないでしょ?」
「さっぱり分かんねぇわ。けど寂しいだろ、隣にいんのに。抱きしめるぐらい許せよ、俺のオンナなんだから…」
黙りこくるゆきみが、ボソッと呟いたんだ。
「またちょっと好きになった、直人くんのこと…」
ドキンっと胸が脈打った。
ボソッて小さな声でそう言うゆきみはクルリと反転してそのまま俺の胸元に顔を埋める。
いきなり抱きつかれて軽く動揺したわけで。
「ドキドキしてる?」
こいつ、俺の事楽しんでる?
腹立つ。
「ゆきみもな!」
「するよ、あの直人くんと同じ布団だもん、するよ、私だって」
「え?なに?」
顔を覗きこもうとしたらクルリとまた向きを変える。
だから俺はそのまま後ろからゆきみを軽く抱きしめた。
顔が見えない方がいいかもしんねぇって。
「なんでもない、おやすみ」
「…おやすみ」
目を閉じると自分の鼓動とゆきみの甘い香り。
妹のシャンプーと同じ香りがして変な気分だった。
【 ▲page top】