顔はタイプ。
バイクに乗せてただひたすら街を走った。
風をきって走ると今抱えてる嫌なこと全部忘れられる気がして。
だから俺は夢中で走ってんのかもしれねぇ。
いつもより遠回りして辿り着いたここ、バイクを停めてゆきみを降ろした。
不安気に俺を見つめるゆきみに指さす方向にはここら一面を見渡せる夜景が広がっていて。
「……すごい。こんなとこあったんだ…」
でかい岩の上に乗って煌びやかな夜景を一望しているゆきみ。
そんなゆきみを後ろからふわりと抱きしめた。
別に意味なんてないけど、ゆきみが妙に小さく見えて。
「風邪ひかれたら困るから」
「夏なのに?」
「黙っとけよ」
「………」
触れると柔らかいオンナに心の奥がカッと熱くなる。
変な気分。
「恋人同士みたいね」
「お前さ、家に帰りたくないの?」
「え?」
「なんとなく、帰りたくねぇって、言ってたろ?」
「…覚えてたんだ」
「親?」
「…ん。帰りたくない」
「なんで?」
「会話ないし、私なんていてもいなくても変わらない。いなくても心配もされないし、いてもご飯も出てこない…家族の愛って、なーに?」
しょんぼりするゆきみを更に強く抱きしめる。
みんな色々抱えて生きてんだなって。
「んじゃうち来る?」
「え?」
「俺がお前を選んだの、あながち間違いじゃねぇのかも。俺のオンナにしてやろうか?お前…」
オンナなんて興味ねぇって思ってた。
いてもいなくても変わらねぇって。
つーかいたらいたで、むしろ面倒くせぇって。
「ほん、き?」
クルリと腕の中で反転して俺を正面から見つめるゆきみ。
「嘘も冗談もすきじゃねぇ。ホンモノしか口にしねぇぞ俺は。怖い?頭の弟のオンナになるの?」
俺の問いかけにジッと一点を見つめていたゆきみ。
「なんで私?」
「ぶっちゃけ適当に選んだ。誰でもいいやって。けどお前でよかったとは思ってる。顔はタイプだし…」
頬を指でくすぐると目を大きく見開いて眉毛を下げた。
ちょっと困ったような顔。
「喜んでいいもの?適当に選んだって」
「だからお前が決めればいい。ノーでも別のオンナ探すだけだし。ただしイエスなら……何があっても俺がお前を守ってやる」
「直人くんは、私でいいの?」
「だから言ったろ、顔はタイプだって!」
気に入らないのか、納得いかないのか、言葉を濁すゆきみ。
え、俺オンナの欲しい言葉言えてねぇ?
ゆきみは少しだけ考える仕草をした後、「好きになってもいい?」そんな質問を飛ばす。
「好きにしろよ」
「守ってくれるの?」
「俺のオンナになったらな?」
「なりたい…」
「決まり。今からゆきみは俺のオンナだ」
正面からギュッと抱きしめた。
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