「ユヅキ、何コソコソしてんのよ?」


お昼休みのチャイムが鳴ると鞄を抱えて屋上へ行こうとするあたしに、ユナの声がそれを止めた。

振り返ったあたしにユナが一歩近づいてニッコリ微笑んだ。


「な、に?」

「寺辻とお昼?」

「うん、そう。もう行かなきゃ…」

「その鞄の中身ってお弁当?」


ニヤッてユナの口端があがって、あたしはカアーっと顔が赤くなっていくのが分かる。

だって今時彼氏にお弁当なんて、流行ってない!

でも、健一郎くんがどうしても食べたいって言うから。

だから…―――


コクンと小さく頷くあたしに、さっきとは違う優しさを含んだユナの笑顔に変わって、「いってらっしゃい」そう送り出してくれる。

今までずっとユナと一緒に食べていたお弁当。

あたしと健一郎くんがめでたく付き合うことになってからユナはことあるごとにあたしを少しからかって、でもちゃんと優しくしてくれる。


「ユナ、ありがとう」

「いいえー!ほら早く!愛しの王子様が待ってんでしょ!」


親友がユナでよかったと思わずにいられない。

あたしはユナの優しさを噛み締めながら、健一郎くんの待つ屋上へと歩いて行った。


「健一郎くん!」


ドアを開けた瞬間目の前に大好きな健一郎くんの太陽みたいな笑顔が飛び込んでくる。


「逢いたかった」


そう言ってあたしをギュッて大きな身体におさめて温もりを確かめあう。

あたしを見つけると必ずといっていいほどにこうしてギューしてくれる健一郎くんは、いつも愛情たっぷりで、それをあたしだけに注ぎ込んでくれる。

最初はそれもどれもドキドキしてどうしたらいいのか分からなくて…

もちろん今でも心臓が壊れそうなほどドキドキしてしまうけれど。


「柔らか」


ギューギューあたしにハグをしながらそんな呟き。


「健一郎くんお弁当食べよう」

「うんうん!」


パッとあたしを離す彼は、尻尾を振って餌を待つ犬とさほど変わりない。



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