制服のブレザーを脱いでそれをベンチにかけると、その上にあたしを座らせる。

そんなお姫様扱いしなくてもいいのに、そうしなきゃカレが嫌がるからそうしている。


「今日は健一郎くんの好きな唐揚げと、オニギリの中身はシャケで…玉子は甘い方ね」

「うわー!オレむっちゃ幸せだぁ!あぁ、幸せ…」


そう言いながら、ベンチに足をかけて肩に腕を回されて…「え」そう思った時にはあたしの後頭部は固定されていて、強烈な健一郎くんの香りに包まれる。

秒数に変えたら10秒にも満たないんだろう一瞬だけれど、空腹感を満たしてしまうこの甘いキスに、あたしは何もできなくなる。

抵抗しなければ深くなる行為。

怪しく健一郎くんの瞳が光った気がして、あたしの視線は広大に広がる青い空。


「え…」


出した言葉はすぐに健一郎くんに飲み込まれて…

首もとに感じる健一郎くんのフワフワの髪の毛。

それをほんの少し心地よく思うあたしは、危険信号?


「ユヅキ…」


名前を呼ぶ健一郎くんの声すら、艶やか。


「健一郎…?」

「ユヅキ」

「…健ちゃん…」


あたしの制服のシャツの中にスッと手を入れて、その手を器用に動かす健一郎くんは、あたしをジッと見つめていて…

思わずその首に腕を回して甘いキスをせがんだ。

…―――のに…




「ごめっ!ストップ!」


肩で息をする健一郎くんは、転がり落ちるようにあたしの上から降りて屋上の地面に大の字で寝そべった。


「大丈夫?」

「ダメ!今は触っちゃダメ!全部ぶっ飛ぶ!」


あたしに手をかざしてそう言う健一郎くん、心なしか顔が赤い。


「理性飛びそう?」


クスクス笑いながらそう聞くあたしに、情けない苦笑いをくれる健一郎くん。

カレに言ってはいないけれど、あたしは健一郎くんとならそうなっていいと思っている。

むしろ、初めての相手は健一郎くんじゃなきゃ困る。

それをカレに伝えたらどんな反応をするのか…

分かりやすいから、何となく想像できるわけで…



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