諦めるのはまだ早い


真っ暗な闇の中で見えたもの。

それは…―――


住む世界が違うって言葉。


それと同時に、頭では分かっているのに、ついていけない自分の惨めな気持ち。

本当は、寺辻くんにはああいう派手な女子が合っているのかもしれない。

そう思うのに、あたしの脳内は壊れてしまったんだろうか?


浮かぶのは、あたしにアイスを差し出している寺辻くん。

真剣にあたしに近づく、艶っぽい表情…。


―――甘酸っぱいその温もり。


どうしようもなく、寺辻くんへの気持ちが溢れて止まらない。

好きだと確信したその時から、一分一秒先も、大きくなってしまう想い。

いっそ、何もなかったあの頃に戻して欲しいくらいに。


―――――――――――…


結局5、6時間目の授業をさぼってしまったあたしは、放課後…静かになるのをひたすら待っていた。

でも、不意に聞こえた爆音にビクっと顔を上げた。

廊下をバタバタ走る音。

聞こえるのは大量のバイク音?

キャーキャー叫ぶ野次馬の声に紛れて「ユヅキー?」ユナの声が耳に届いた。

立ち上がってあたしはおそるおそる階段下から顔を出した。


「わ!いた!…大丈夫?」


たぶんだけど、顔が腫れているんだろうあたしを見てユナがそう聞いた。

泣いて少しすっきりしたのか、あたしは小さく頷く。


「あのねユヅキ。諦めるのはまだ早いよ!」

「えっ!?」


ユナに腕をとられて、長い廊下を走り出した。

行き交う生徒たちの波に紛れて、あたし達は校庭に出て行った。


「寺辻、ユヅキと別れた後、色んな女に手出したみたいだけど、それ全部切ってきたって。後、キスはユヅキとしかしてないって。それだけ伝えて欲しいって頼まれた」


腕を握るユナの手にギュっと力が入って…

たったその言葉だけで、あたしは寺辻くんを信じたくなる。

親友のユナに託してくれた寺辻くん。

本当に、あたしのこと見ていてくれた気がするんだ。



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