あたしがこうやって寺辻くんに出会って恋をしたことを、やっぱり運命だと思いたい。
間違えてした告白も、それを受け止めてくれたことも、全部が繋がっているって…
―――思いたい。
―――――――――――…
「遊び…なの?」
「ユヅキちゃん…」
目の前で驚きを隠せないでいる寺辻くんは何も言ってくれない。
何を信じればいいのか分からなくて。
寺辻くんだけを強く信じられるほど、あたし達は長い月日を過ごしてはいない。
でも…―――
「う、嘘言わないでよ!寺辻くんは好きな子にしかキスしないって言ったもん!あたしは寺辻くんだからキスできたんだもんっ!」
まるで子供が駄々をこねているように聞こえたかもしれない。
欲しいおもちゃを取られて、取り返そうと必死にそう言ったのかもしれない。
それでも、”好き”と確信したこの気持ち、そう簡単には負けられないんだ!!
あたしは誰が何と言おうと、この恋を信じる。
寺辻くんを好きだと思ったこの気持ちに嘘はないって…。
「ふうん」
あたしを見ていた寺辻くんの相手、ジロリと視線を強くした。
嫌な予感がしたのはほんの一瞬で、その女…
ニヤリと口端に笑みを浮かべると、寺辻くんの首に腕をかけてそのまま背伸びをする…
目の前に広がるその光景に、絶句した。
「…っ」
言葉にならない声がゆるく漏れるあたしの口元は震えている。
0センチの距離で二人の影が揺れた…
逃げ、なのかもしれない。
気持ちじゃ負けない!と思っていたのに、あんな光景とてもじゃないけれど見ていられなくて…
寺辻くんと付き合っていたあの時間がどれだけ淡くてフワフワして心地よかったのかを、思い知らされた。
恋は、こんなにも痛いんだと。
「ふえっ…」
擦っても擦っても、零れ落ちてしまう大粒の涙を何度も何度も指で拭う。
ここに寺辻くんがいたならば、きっと困った顔であたしの涙を拭ってくれたに違いない。
そんな妄想もう、ありえない。
誰も通らないB階段下の隙間に蹲って、あたしはその涙が止まるまで一人で泣き続けることしかできなかった。
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