独占欲1
「楽しみはまた夜にとっておかなきゃね〜」
そう笑ってタカヒロくんは私を離すと、出掛ける準備を始めた。
会社の時は、ワックスで髪を濡らしてウエットに茶髪を靡かせているタカヒロくん、休日はサラサラヘアーのことが多い。
私は、あのワックスヘアーがわりと気に入っている。
『髪、上げないの?』
「上げた方が好き?」
『どっちも好きだけど、上げてるのも好きで…』
「ハハ、ユヅキに言われたらするしかないじゃん!俺も巻いてるユヅキ好きだよ?」
『タカヒロくんに言われたら巻くしかないね』
目が合って笑いあう。
タカヒロくんと一緒に住んだら、こんなたわいのない話にさえも、愛情いっぱい感じれて幸せなんだろうなぁ〜って思ってしまう。
私とタカヒロくんはまだ出逢ってそんなに月日がたっている訳ではない。
けれど、これから先の未来を一緒に歩いてゆくパートナーとして考えるのなら、タカヒロくん以外はあり得ない。
「好きだ」と思っていても、今までの人には感じる事のなかった幸せを身体全部で感じているんだ。
「じゃあ、出発〜」
ホテルのキーをかけて、私に手を差し出すタカヒロくん。
黒のコートがよく似合っているタカヒロくんは、やっぱりどこから見ても男前で、ホテル内でも、ホテルの外に出ても街ゆく人の視線を集めていた。
それをほんの少しだけ悔しいというか、独占の心がある私。
カレは私の愛する人なの!
そう大声で叫んで歩きたいくらいに。
でも実際そんなことできる訳もなく、繋がれた指をキュって強く握ると、簡単にタカヒロくんの視線が私に降りてくる。
「ん?」
そう首を傾げて私の言葉を待つタカヒロくんに、少しだけ背伸びをして耳元に口を近づけた。
そんな私に合わせて少し屈んで私に耳を寄せるタカヒロくん。
『大好き』
「…え」
『えへへ』
「…ユヅキ…」
『ごめん、言いたくなっちゃったの』
照れ隠しに舌を出して笑う私に、やっぱり耳まで真っ赤になってくれるタカヒロくん。
不意に繋がれていた手を引っ張られて、反対側のタカヒロくんの腕、私の腰に回される。
完全に抱きしめられている状態で、そっと今度は私の耳元に落ちてくる低音。
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