ヤキモチ2




初めてこのバーで会った時みたいに、アキラの作った生姜焼きをかきこむタカヒロくん。

ものの5分程度で胃の中にほおりこんでしまった。

食後の一服をしているタカヒロくんに向かって、「ゆっくりしてってな」ってわざとそう言うアキラ。

この感じじゃお客さん来なさそうだよねぇ。


『お店、いつまで?』

「ん〜気分」


そう言うアキラは、ほんの少し淋しそうに見えて、何だか哀愁漂っている。

昔からアキラはどこか影があって、どこか淋しげに見えることがあった。

特にこの人肌恋しい季節が弱いんじゃないかって、密かに私は思うわけで。


『っ?』


ドキッと心臓が高鳴って私は視線を隣に移すと、ちょっとだけ頬を膨らませたタカヒロくんの顔。

…―――と、握られた手。


『どうしたの?』

「…別に」


べ、別に?

って顔じゃないよ〜…

え〜私何しちゃった?

ジーッとタカヒロくんは私の顔を見つめている。

そんな風に見つめられると、タカヒロくんのいる右側が熱くなってきちゃうんですけど。


「行こう」


そう言って、数秒考えていた私の腕を引いて立ち上がった。

五千円をカウンターにポンッて置いて「ごちそーさん」ってアキラに言うタカヒロくん。


「ユヅキちょっと」


でも不意にアキラに呼び止められて立ち止まった私の隣、腕を掴むタカヒロくんの手に力がこめられた。

見つめるタカヒロくんの顔は、不機嫌丸出し…

…もしかして?

「行くな」なんて言葉、タカヒロくんからは出てこないけれど…


「なんだよっ」


私の代わりにそんな言葉をアキラに投げる掠れたタカヒロくんの声。


「いいからユヅキ来て」

『ちょっと行ってくるね』

「ん」


繋がれた手をそっと離して私はカウンターの中にいるアキラの前に立った。






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