俺の彼女5




それから口元を少し綻ばせて「あ、彼女っすか?」そう聞いたんだ。

なんてゆうか、他人が発するその言葉に小さな感動を覚えて、固まってしまっている私の肩に手をかけると、


「ユヅキさん。俺の彼女。これは後輩の八木」


「これ」扱いされた八木さんはフニャフニャって顔を緩ませると隣のタカヒロくんに視線を移した。


「いやらしい目でユヅキを見んなよ」

「いや、綺麗な人だなぁーって」

「当たり前だろ」


そう言うタカヒロくんは心なしか頬が赤くて。

吸っていた煙草を灰皿に潰すと、黒い財布から三千円を取り出した。


「ごっそーさん。後頼むな」


アキラにそう言って、立ち上がると私の頬に触れた。

途端にドキドキして、見上げた先のタカヒロくんの顔がゆっくり近づく…

伏し目がちな瞳が私を覆うように被さって…


「行ってきます。終わったら電話するね」


真っ赤っかな私は又小さく頷いた。

何かを言ってる八木さんの背中を無理矢理押して遠ざかっていく。

お店を出る直前にクルッて振り返ると、私に向かってパチッとウィンクすると胸の前で小さく手を振った。

私も振り返すと口を尖らせてチュッてエアーキスが飛んできた。

さすがにキスは返せないけど、嬉しさの込み上げた顔で見つめる先に…

そのずっと先にある甘い夜に

私は又胸が熱くなったんだ。


「よかったじゃん」


目の前にいるアキラ私の頭を撫で撫でしながらニッコリ笑った。


『あぁ、うん。色々とご心配かけました』


私の過去を知っているアキラは、少なからず心配してくれてたんだって。


「タカヒロなら俺も安心」

『うん、ありがとう』

「チェー」


唇を尖らせて笑ったその笑顔が、少しだけ悲しげに見えたのは、きっと私の気のせい。


そうしてアキラと久々に買い物をしていた私の携帯が再び振動を告げたのは、陽も落ちかけた夕方のことだった。




待ち合わせ場所の駅に着くと両手を上げたタカヒロくんがいて。


「プレゼン勝ったよっ!」


そう叫ぶタカヒロくんが愛しくて、私はその胸に飛び込んだんだ。








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