小さな不安3




『私なんかのどこがいいの?』


もうこんな子供みたいな我が儘言いたくなんかないのに、何だか止まらなくて。

自分が一目惚れされるような美人じゃない事くらいは分かってるつもりで。

タカヒロくんがカッコイイだけに、普通な自分を選んでくれた事実をすんなり受け入れられずにいた。


何もかもが今更って思うけど、この一歩を進んでしまったらきっと戻る事が出来ないだろうから。

こんなに攻撃的な言葉をぶつけているのにも関わらず私はタカヒロくんを離したいなんて1ミリも思っていないのに。

むしろこの不安を全部吹き飛ばすかのように笑い飛ばして欲しいとさえ思っているんだ。


「軽く聞こえたならごめん。でも、何かうまく言えないんだけど…初めて会った時、女なのによく仕事すんだ?って思って。ほら、会社から電話で席外したでしょ…。戻ってきてからも、一人でみんなの酒頼んだり皿片付けたり、自然と家庭的な部分が見えて…他の女は香水臭くて煙草も吸うし、化粧厚いし…ユヅキちゃんが自然体ですごい綺麗に見えて…」


小さな声だったけど、丁寧にそう答えてくれたタカヒロくんは私に触れずにいる。

繋がれていた手が寂しそうにプランとしている。

そんな風に私を見ていてくれたなんて思いもしなくて、勝手に酷い事を思った自分を情けなく思う。

それはほんの一瞬の事だけど、タカヒロくんを疑った自分が嫌で嫌で…


「ユヅキちゃん?」

『タカヒロく…』


両手でタカヒロくんの腕を掴んで俯く。


「不安なら何回でも納得できるようにちゃんと話すよ、俺」

『もういいの、違う…嬉しいの…』

「え?」


顔を上げると私より不安な表情のタカヒロくんがいて。

ちょっと泣きそうな潤んだ瞳がしっかりと私を見下ろしている。






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