甘えん坊1
会社のみんなに結婚の報告をするから、遅くなる…って言われていたその日、やっぱりタカヒロは遅くて…23時を過ぎた頃、私の携帯に電話がかかってきた。
タカヒロからの着信に『もしもし?』出てみたら…
聞こえた声はタカヒロじゃなくて…
『もしもし、タカヒロ?』
「あ、すいません、ボク、タカヒロさんの後輩の八木です!ユヅキさんですよね?」
…ああ、ホラー映画の八木くん!!
『はい、そうです。あのタカヒロになにか?』
「じつはタカヒロさん珍しく酔っ払っちゃって…ちょっと一人じゃ帰れそうもなくて…申し訳ないんですけど、今から迎えに来れたりします?」
『わ、すみませんご迷惑かけて。すぐに行きます、場所教えていただいてよろしいですか?』
八木くんが丁寧に場所を教えてくれて、私は薄手のコートを羽織ると、携帯と財布を持って車を出した。
それにしてもタカヒロが酔うなんて本当珍しいなぁ。
結婚の報告したからたぶん、みんなに飲ませられたんだろうな―って思うけど…。
そういや…タカヒロの酔った姿って私、何気に見たことないかも?
私もそうだけど、若くないし…お酒の量はある程度分かって飲んでるからなぁ…。
酔ったタカヒロってどうなるんだろ…
ちょっとだけドキドキしながら私はタカヒロの待つ飲み屋まで急いだんだ。
『あのぉ…―――』
指定された場所について、お店の中を捜していた私は奥の個室にタカヒロの姿を見つけて手前にいた人に声をかけた。
「あ、ユヅキさん!すいません、夜遅いのに!!タカヒロさん、奥さんきましたよ!?」
壁に寄りかかっていたタカヒロが私を見てパアーっと顔を明るくした。
思いっきり両手を伸ばして「ユヅキちゃんっ!!」そう叫んだ。
…わぁ…これは甘え上戸ですか!!
でもこんなタカヒロ絶対滅多に見れないし…何より可愛いなぁ!!
私は個室の部屋にあがってタカヒロの傍に膝をついた。
『タカヒロ、大丈夫?』
「んー…ダメ、ダメ!ハグしてぇ―」
『…こらぁ、みんな見てるよ?』
「見てないでしょ―!」
『帰ったらしてあげるから、ね?』
「今がいいよぉ、ユヅキ…」
寄ってるせいか、妙に潤んだ瞳で私を見上げてきて…
その顔、ズルイ!!
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