シャンパングラス1
結婚を決めた私達はお互いの両親に挨拶したり、結婚式の日程を決めたり…で、ほどよく忙しい日々を過ごしていた。
だから少しだけ忘れていたんだ…―――――――
「ユヅキ、電話鳴ってる―!」
タカヒロのマンションに一緒に住み始めてから1か月が過ぎた頃、私の携帯に入ったその着信。
『あ、アキラ!』
「…え?」
『アキラだよ、久しぶりだな』
怪訝な顔を見せるタカヒロを尻目に、私は携帯の通話ボタンを押した。
『もしもし?』
【俺。何してた?】
聞きやすい低音に思わず顔が緩んだ。
そういえば最近アキラと買い物も行ってないな〜なんて思う私の後ろ、ふて腐れた顔のタカヒロが目に入る。
『今洗濯終わったところ』
【ふうん。タカヒロもいるの?】
『うん、いるよ』
【そう。昼飯誘おうと思ったんだけど又にするわ】
そう言うアキラの声に温度がないように聞こえて…
急にどうしたんだろ?
『アキラ?なんか機嫌悪い?』
【まぁ、普通に…】
『えっ?』
【…ほんと鈍感だね、ユヅキ。…プレゼント、見たの?】
物凄い怒った声でそう言われてハッとした。
見てなかった、アキラからの贈り物。
『ごめんまだ…。後で見るよ』
【…はぁ〜。腹立つ】
『ごめんって』
【そうじゃなくて!ユヅキが鈍感すぎて腹立ってんの、俺!】
なんて答えればいいか分からなくて唇を噛み締めた。
私に対してこんな風に怒りを見せたことのない人だったから、どうしたらいいのか分からない。
シュンとしたその一瞬を、でもタカヒロは見ていたのか?ソファーから立ち上がって私の所までくると、手中の携帯を強引に奪い取った。
「なに、アキラ?」
『ちょっと、タカヒロっ!!』
手を伸ばす私を片手でグッと押さえつけて携帯を返してくれないタカヒロ。
携帯越しに微かに聞こえるアキラの声。
でも、何を言っているのかまでは分かるわけもなく…
「ああ…分かってたけど?無理だろ…諦めろよ!つーか最初っから俺のだろが、ユヅキは。お前の気持ちは分かってたけど、俺等結婚するから…お前にも祝って欲しい…」
何となく…アキラが恋人を作らない理由を分かっていたけれど、私はずっとその理由に気づかないフリをしていた。
だって実際アキラは私に何も言わないし…
いつだって私の恋を応援してくれていたから。
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