■ 前進1
それはわたしが待っていた言葉とはかけ離れていた。
¨待っていた¨って思う時点でわたしの中で哲也が言うべき言葉は決まっているらしい。
思い通りに言葉を発してくれる人なんていやしないのに、それでもわたしは哲也に言ってもらいたい言葉を頭の中に並べていた。
わたしがそう思うってことは、哲也もわたしに対して同じように思い描いた言葉を口にするのを待っているのかもしれない。
それにわたしはどれだけ応えられているんだろうか。
時折困惑した表情を見せる哲也を思うと、わたしは哲也に理想の言葉を与えられていないんだって思えた。
哲也は苛立ちを感じないんだろうか?
どうにも苛立ちを感じるわたしは、ただの小さい人間なんだと思う。
そんな言葉をくれる魔法使いは残念だけどこの世には存在しない。
分かっているのにこの苛立ちが収まらなくて、弱いわたしは泣くしかできない。
哲也からしたら、わけの分かんない涙を流すわたしを、面倒臭いと思うだろうに。
でも、一度流れた涙は、なかなか止まらなくて…
『て…つや…?』
うっかり振り返ったわたしを待っていた哲也の腕は、わたしの前に伸びてきて触れずに止まっているんだ。
それは少なからず哲也がわたしに罪悪感を抱いているからだって。
そんな遠慮なんかいらないのに!
わたしにそんな気遣い必要ないのに…
いつだって哲也のものでいたいのに。
哲也の腕は止まったままで。
十分に傷ついているだろう哲也を余計に傷つけてしまったと思うと、こんなにも胸が痛い。
「嘘は、嘘だ。ゆきみを信じてねぇわけじゃねぇけど…それ以上に俺のいない所でゆきみに何かあったら?ってそう思うと…それしか思いつかなかった」
ポツリ、ポツリとそう言う哲也はそこまで言うと一旦言葉を止めて小さく深呼吸をした。
緊張感はまだ今も続いてる。
「でも結局…ゆきみを傷つけただけだった、―――ごめん」
掠れた哲也の声は、泣いているわけじゃないのに、どうしてか…泣いちゃいそうに思えて。
そこまでしてわたしを守りたいと思ってくれた哲也の気持ちを嬉しく思う。