■ 情1
数えきれないくらいの意味の含まれたその言葉が
ようやくノリの暴走を止めたんだって…――――
ゆきみやあたし、哲也くんに対して言葉を発することはしないけれど
ノリの涙が嘘じゃないってことくらいは十分に分かる。
ちゃんと、本物の涙だって。
それよりさっき何度も言った『ごめんなさい』って言葉こそが、あたし達一人一人に向けられたものなんだってそう思えるんだ。
たった一言、タカヒロの謝罪の言葉に小さく頷いたノリを、タカヒロが止めてよかったってそう思う。
今までしてきたことを思うと、タカヒロと向き合えなかったのは、ノリが自分のしたことに罪悪感を持っていたからで。
それを全てタカヒロに打ち明けてしまったら、タカヒロを失ってしまう…って思っていたからなんじゃないかって。
タカヒロを失いたくないって夢中になって、一番大事な自分の気持ちさえも見えなくなってしまったんだって。
タカヒロって人がありながらも、哲也くんって存在を独占していたのは、もしかしたらノリなりのSOSだったのかもしれない。
だから本来なら、哲也くんが愛しているのはゆきみだって、見ていたら分かるような真実も、ノリには見抜けなかったんだって。
今日、一真がここに来た時点で、少なからずノリはこうなるって感じとっていたんじゃないかとも思えた。
ノリにそれを覚悟させる為に、この面子を集めたの?タカヒロは。
あたしが感じた不安は、現実になって今もまだあたしを苦しめている。
けど…
例えばタカヒロが今、簡単にノリを突き放すようなことを言ったとしたら…
あたしはタカヒロに対して何等かの不信感を抱いてしまったかもしれない。
一度惚れた女に対して、気持ちが離れてしまったとしても、それを簡単に切り離すようなそんな冷たい男であったのならば
あたしは今後、タカヒロを受け入れられないだろうって。
あたしを傷つけてもノリを守るというタカヒロを、悲しくはあるけれど
それでこそ田崎敬浩なんじゃないかって思うんだ。
それが、相手を思いやる恋愛なんじゃないかって思う。
たかが15,6歳のあたし達だって、真剣に人を好きになるんだって。