■ 真実一つ1


哲也の優しい瞳と頭にかかる切ない吐息がわたしを熱くする。

抱きしめられて嬉しいって気持ちがないわけじゃないけど、その意味が分からなくて。

哲也がわたしを好きってことすら、ノリを前にすると自信がない。

何を思ってこうしているの?

その気持ちを聞かせてよ…

棒立ちのわたしから見えるノリは困惑の表情でこっちを見ている。

いつもいつも哲也を独占していたノリを、初めて拒否した哲也が口を開くのを待っているわたしに届いたのは、奈々の側にいるタカヒロの声だった。


「惚れた女を守るのは当たり前だろ」


何もかもを知っているんだろうタカヒロの言葉は、ますますわたしの脳内を混乱させる。

考えようとしても思い浮かぶのは、哲也の後ろ姿ばかりで。

わたしを置いてノリの元に駆け寄る哲也の後ろ姿を、わたしは何度見送ったんだろうか。

その度に哲也を諦めなくちゃ…って思うのに、その思いは一晩たてば忘れてしまうような緩いもので。

どんな二人を見せつけられても、結局わたしの気持ちが哲也から離れることなんてないんだと思う。


『だから、あたしでしょ?』


ノリのその声は少し不安そうにも聞こえる。

困惑したみんなに口を開いた哲也の言葉は、やっぱり意味の分からない謝罪の言葉だった。


「―――悪かった――」


そう言う哲也は、決してわたしを離そうとはしない。

沈黙を破った哲也が口にした真実、それは…―――



「俺は初めっからゆきみしか見てねぇ。チームのTOPの女はチーム全体で守るべき人だ。だから俺がノリちゃんを好きだってそう思わせた。―――ゆきみを俺から遠ざける為に」


トクン…トクン…

哲也の心臓の音が速さを増しているのは、真実を語るのに少なからず緊張しているから?

背中に回されていた哲也の手は、今はわたしの髪に絡められている。

ようするに哲也はわたしを守る為にノリを好きと言ってたってこと?


「だから俺はノリちゃんを守り続けてきた」


哲也が微かに震えていることに気づいているのは、きっとわたしだけで。

なんでか、哲也の言っていることが現実味を帯びていないように思えてしまう。

ずっと哲也が好きで、哲也だけが大好きで、ずっと苦しかった。

大好きな哲也は、わたし以外のノリを大事にしていて…

それが苦しくて辛くて…


それが…―――うそ?



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