■ 一途さ1


「奈々ッ!」


逢いたかった…

そう言われた気がした。

人目も気にしないって態度でケンチがあたしを抱きしめたんだ。

どうしてだろう…

気になるのは、チームの子の視線。

あたしを見る視線が変わった気がする。


『ケンチ、みんな何かあった?』


ほんの一瞬ケンチの身体がピクンとしたから、何かがあったんだって。

あたしから身体を離すケンチはちょっとだけ悔しそうな表情を浮かべている。

あきらかにあたしを見る目が不審なチームの子と、悔しそうなケンチの表情でなんとなく分かった気がする。

だから、ゆきみと哲也くんも笑顔がなくなったんだって。

どうしてあの時気づかなかったんだろう、あたし。

ジロジロ見ているチームの子から守るように、あたしから離れようとしない哲也くん。

言葉に出して否定することもできるんだろうけど、それをしないのはノリのことも守っているのかな?…って少し切なくなった。


「ジロジロ見んじゃねー」


あたしから目を逸らしたケンチの視線は、水道周りに座って煙草を吸っているチームの子にピシャリと投げ付けられた。

苛々感満載でケンチが大きく舌打ちをする。


「奈々、俺がお前を守ってやる…誰にも文句は言わせねぇぞ」


あたしの両肩に置かれたケンチの腕に力が入って…

すごく嬉しかった。

ケンチがあたしを一番に考えてくれて…

すごくすごく嬉しかった。

でも、ケンチに甘えたらあたしの気持ちまで嘘になってしまいそうで。

タカヒロが好きって気持ちにだけは嘘をつきたくなくて。

例えばあたしがケンチと一緒にいたら、それは幸せかもしれない。

今までケンチだってあたしを沢山守ってきてくれた。

何よりタカヒロといるのが辛くて、でも行く所のないあたしを、ずっと理由も聞かずに匿(かくま)ってくれた。

その恩をあだで返すわけじゃないけど

気持ちがないのにケンチに甘えるのは、ケンチを余計に傷つけるだけだってそう思う。



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