■ 束縛1
散々殴られたせいで、あたしはそれから三日間高熱を出した。
そのせいで、記憶も少し曖昧で。
煙草の煙りは直人の物で、一々タカヒロだと勘違いする自分が情けない。
ゆきみがつきっきりで看病してくれて、夜になると必ず直人が来てくれた。
どうしてタカヒロはこないの?
『奈々大丈夫?気分悪くない?』
四日目の朝、目を覚ましたあたしを心配そうに見つめるゆきみ。
手にはタオルを持っていて、あたしの頬を冷やしている。
『ゆきみずっといてくれたの?』
『うん』
『ありがとう…』
今までこうやって心配してくれる人もいなかったから、正直どう対応したらいいか分からなかったけれど、あたしを思ってあたしを心配してくれる友達がいるってだけでこんなにも嬉しくて、こんなにも心強いもんなんだ…って思った。
『親父は?』
『もう出てったよ。今ね、直人がお粥に挑戦してる』
廊下の奥のキッチンを指差してゆきみが笑った。
つられてあたしも笑って。
タカヒロが来ない寂しさがゆきみに穴埋めされて、それはとっても嬉しく思った。
こんな風にならないようにタカヒロに守ってもらっていたのに、この事実を知ったタカヒロは一体どう思うんだろう。
行かなかった自分を責める?
それ以前に、行かない理由以上には思えない?
『お粥、食べれるかな…?』
『お腹すいた』
まだ頬の痣はとれなくて、しばらくみんなに会えないな〜って思う。
『…タカヒロ…』
思わず呟いたあたしの言葉に反応するみたいに、ピクン…てゆきみの身体が動いた。
『…わたしも分からないの。ごめんね』
『何か知ってるの?あたし知りたい、タカヒロが来ない理由…』
困った顔のゆきみは俯いていて。
あたしが眠っていた三日間、何があったんだろう?
「ずっとここにいたんですよ、ゆきみさん。タカヒロさんには、自分も会ってません…」
お粥を持った直人が入ってきてテーブルにお盆を置いてそう言った。