■ 星に願いを1
【side 奈々】
部屋から出たもののあの部屋に戻るのはマズイと思って、あたしは一番奥にあるタカヒロたちが待機している部屋に顔を出した。
ガラっとドアを開けると煙草の煙が充満していて、ちょっとだけ顔をしかめた。
「あ、悪い」
そう言って、灰皿に煙草を押しつぶすタカヒロ。
続くように、ケンチと直人も慌てて煙草を消した。
『別に大丈夫だよ?うち今は誰も吸わないけど…この部屋誰も使ってないから』
住んでる人数よりも遥かに多い部屋数。
緑に囲まれたここは、空気が美味しければ、ご飯も美味しい。
夜には沢山の星も見えてとても綺麗で。
「随分広い家だな」
『うん、田舎だから』
「そっか」
『夜はね、星がすごい綺麗なの!!』
そう言ったあたしはふと思いついた。
時計の針を見るとまだ、お昼にもなっていない。
せっかくみんながここにいるのだから、できるのならもう少しここで遊べないだろうか。
『あのね、タカヒロ…』
「ん?」
『もう、帰るよね?』
「どうして」
『もう少し…』
その先が言えなくて…
タカヒロと過ごしたいってあたしの気持ちは溢れているけど、その誘い文句が言えなくて。
そんなあたしに、タカヒロは優しく微笑んだ。
「星、見てから帰るか」
『いいの?』
「お前がそうしたいんだろ?」
『うん』
ケンチと直人にも視線を移すと、ニッコリ笑ってくれて。
夏休み。
昨日までのあたしは悲しい夏休みだと思っていたけど、それは「素敵な思い出」にすり替えられる。
そこにタカヒロがいて、ゆきみがいて、哲也くんがいて、ケンチがいて、直人がいて…
―――――あたしがいる。
それが、こんなにも嬉しいだなんて。