■ 惨めなキス


『あ、あたしトイレ…』


変に気遣って、奈々がスーッと出て行ってしまった。

遠慮なく部屋に侵入する哲也は、それ系モードらしく…

わたしの腰に回した腕を自分の方に引き寄せた。

まさか、さっきの話…聞いてたんだろうか?

何も言わない、何も聞かない哲也。

わたしのオデコに自分のオデコをくっつけて、そっと瞳を閉じている。

間近で見る哲也の顔は綺麗。

哲也が目を閉じているからって、わたしはその顔をジッと見つめてしまう。


「俺…」

『えっ?』

「…なんでもねぇ」

『なに?』


困惑するわたしの背中に腕を回すと、そのままちょっと強引に哲也が近づいて…―――

まるでさっきの続きとも取れるような…

気の遠くなりそうなキスが落ちた―――



哲也にキスをされると何も考えられなくて…

ドキドキするのにやめないでほしいって。

わたしの後頭部を掴まえて離さない哲也は、一度唇を離すとそっと視線を絡めた。


「ゆきみ…」


わたしを呼ぶ声が少し切なくて…。


『哲也?』


見つめるわたしの顔を覗き込むようにしてまた唇を重ねる…


言葉が全てじゃないけど、言葉なんかいらないのかもしれないけど、哲也の気持ちが見えないのにこんなこと…

そう思う気持ちがないわけじゃないのに、結局こうしてキスをすることにすら、わたしは何の抵抗すらできない。

哲也が100%わたしを愛してくれてのキスならばどんなにいいか…。

ノリよりもわたしが大事だって言って貰った側から、結局わたしはノリと哲也を信じることができないでいるんだ。


こんな惨めなキス、ないよね…。



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