■ 奪略宣言1


「久しぶり」

『うん』

「奈々ん家すっげー広いな」

『ケンチ…』


ごめんね!って言おうとしたあたしの口にそっと手を当てるケンチ。


「謝るなら一人でいなくなったりすんな」


真剣なその表情にケンチの優しさが溢れていて、あたしは強く頷いた。


「本気で、気が狂うかと思った…」


もたれるみたいに微かにあたしの肩に触れるケンチの黒髪。

しっかりと掴まれた腕は熱い。

いつもあたしを守ってくれるケンチ。


『ありがとう』


この言葉がケンチに相応しいんだってそう感じた。


「タカヒロさんに殺されるって思った……色んな意味で…」


溜息交じりなケンチの言葉にキョトンと見返すあたしから離れると、困った顔を浮かべている。


『え、ケンチ…』

「でもいーやもう…タカヒロさんに殺されても俺…奈々を離さねぇ」


…?

ケンチ何言ってんの?

見つめるケンチの瞳は至って真剣で。

いつもの冗談を言うケンチの笑顔の欠片もない。


『あの…』

「まじで奈々がいねーとダメだって…よく分かった」


これって…


『え、ケンチ?』


キョロキョロ辺りを見回しても、今ここにはあたしとケンチの二人きりで。

軽く挙動不審なあたしの腕を掴むケンチの腕は、やっぱり熱い!

ゆっくりとあたしを見下ろすケンチがほんの少し笑った。




「惚れたわ、お前に」



ドキン…

…なんで?

ほんと?

冗談?

じゃなさそうで。

直人がゆきみを想うのは分かるけど、ケンチがあたし?


『………』


言葉なんか見つからなくて。

どーしよう?って思いでいっぱい。


「タカヒロさんに内緒で俺と……嘘だよ!そんなことしねーっよ」


泣きそうなあたしにそう言うケンチは、いつものケンチで。

あたしの困った顔に、ちゃんとフォローを入れてくれるあたしのケンチ。


「でも、奈々を泣かす奴は誰だろうと許さねぇ…それが例えタカヒロさんでも…」

『ケンチ…』

「そん時は全力で奈々を奪いにいくから、忘れんなよ」


真剣なケンチの言葉に胸がキュンとした。



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