■ 壊れたハートと悲しい恋の始まり1


【side ゆきみ】




行かないで、一真…

ゆきみを置いて、行かないで…


――――――――――…



「俺親父に着いてく…」

『え…』


小学校五年の秋、幼いながらも大人ぶったぶっきら棒な声がわたしの小さな胸を突き刺した。

ずっと前から聞いていたけどそうなるかもしれないって聞いていたけど、こんなにも早く現実に起こるなんて思ってもみなかった。

そうならないようにそうならないように、最善を尽くしてきたって言葉すらもう耳に入らない。

病める時も健やかなる時も生涯変わらぬ愛を誓いますか?

神聖なる結婚式で交わすあの約束の言葉なんて、何の意味もないんだ。

愛とか恋とか…

そんなの一時の感情でしかないんだ。

長く、永く続く『すき』なんてこの世には存在しないんだ。

永遠を信じていたわたしが失った小さなハート。

今あるこの気持ちも、いつかは無くなると思うと悲しくなる。

どうして子供は親の離婚に運命を左右されるんだろうか…


『やだよ一真…』


ギュッて一真の服の袖を握った。

愛だの恋だの言う年じゃないのなんて分かってるけど、ずっと一緒だった兄妹みたいな存在の一真をこの時失う事は、あの頃のわたしには重すぎた気がする。


「ゆきみごめん」

『やだっ!一真!側に居るって言ったもんっ!ゆきみの側にずっと居るって言ったもんっ!』


涙声のわたしを困ったように見つめるまだ幼い一真。


「哲也が側に居るよ」


冷たくも感じる一真の言葉。それはゆきみが待っている言葉じゃなくって。


『やだよ一真も居てくれなきゃ…』

「…待ってて。俺迎えに行くから…大人になってゆきみのこと絶対迎えに行くから待ってて。それまでちょっとだけバイバイだよ」


指切りげんまんをする一真に『うん』と泣きながら頷いたわたしは、双子の弟である哲也をずっと好きだという恋心を知らぬまに隠したんだった。

兄のような存在である一真を待つと言ったわたしは、簡単に哲也への想いを大きくさせた。


近くにいてくれたから…

そうじゃなくて。

優しい一真とは正反対なヤンチャな哲也がずっと好きで。

きっと、おじさんについていったのが哲也だったとしても、わたしは今も哲也を好きに違いない。


哲也はそんなわたしの想いをどこまで分かってる?



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