■ 叶わぬ想い5
【side ゆきみ】
『哲也、もう分かったから…分かったから帰ろう』
正面からわたしを抱きしめて離さない哲也にそう言ったのは、あれから5分くらいしてからだった。
「次の走りは俺のとこ乗れよ」
ポンッてわたしの髪に触れる哲也の瞳はとても優しくて、わたしは小さく『うん』て頷いた。
それを聞いて哲也はようやくわたしを離した。
でもそのまま腕が肩に回ってきて結局抱き寄せられて歩くわたし達。
「俺の側にいんだろ?」
耳元でそう囁かれた。
全身が熱くなって、やっぱり恥ずかしいから俯くだけで、それを哲也はわたしが頷いた返事だと思ったのか、
「じゃあ離れんな」
そう言った。
「遠慮する必要もねぇし、気使う事もすんなよな、何でも俺に言えよ」
強く強く肩を抱き寄せられた。
頷くわたしをバイクの後ろに乗せて青倉庫を出た。
もう奈々もケンチも、直人もそこにはいなかった。
哲也の言葉が本心でない事くらい分かる。
幼馴染だからってそこに自惚れるつもりはないし。
わたしを大事に想ってくれている事も十分分かってるのに、心が渇いていてちっとも満たされる事などなかった。
哲也だって叶わぬ恋をしているのだから、わたしの気持ちが分かるはずなのに、どうしてそんな事を言うのかが分からない。
気持ちの入ってない言葉なんて通じないのに、伝わらないのに…
でも、…でも。
わたしはそれでも哲也の側にいたいと思う馬鹿な女なんだろう。
叶わないと分かっていても、哲也を諦める事すら出来ずに、哲也の本心じゃない言葉を真に受けてしまう、悲しい女でいるんだろうと。