■ 叶わぬ想い3
『走りって、暴走ってこと?…いいのかな、あたしなんかが行っても』
「俺が連れて行きたいんだよ。直人、ゆきみちゃんいい?」
「……」
黙って煙草を吸っている直人は、完全にボーッとしているように見えたけど深く考え事をしていたようで、あたしとケンチの視線に気づくと「ん?」と首を傾げた。
「聞いとけよ、ボケ!週末ゆきみちゃん乗せろって」
ちょっと面倒臭さそうにケンチが言った。
「あー…はい」
苦笑いもいいとこ、直人の心の中はゆきみの事に違いない。
哲也くんと何かあったのかもしれないけど、直人が何も言わないって事はあんまり話したくないのかな…って勝手に思った。
それとも、ゆきみが直人に『言わないで』って口止めしたのか。
どっちにしても、心配をかけまいと物事を隠す事は、逆に知らなかった方はちょっとだけ寂しくも思う。
最も知らないから寂しいなんて感情すら起こらないはずだけど、何かの手違いでそれを知ってしまった時にそう思うんじゃないかって。
哲也くんとの事に関して、ゆきみの気持ちすら言って貰えないあたしは、少しだけ寂しく思っていた。
誰が見ても相思相愛に見えるのにって…
そんな事思ってたら、張り詰めたような空気が漂って、その理由は見なくても分かった。
バーの入口からいつもの如く彼女を抱き抱えたタカヒロが出て来た。
青倉庫の入り口付近に止まっている送迎車に向かってゆっくりと歩くタカヒロたちに、みんなが頭を下げる。