■ 闇の中の真実6
『哲也離してよ、痛いよ』
「ゆきみ!!」
取り乱しているのはむしろ哲也の方で、哲也の気持ちを分かっているわたしは意外にも冷静だった。
とはいえ廊下は響くから、直人の心配顔は拍車をかけていって。
『わたし差し入れ持って来ただけだって、どうしちゃったの?』
「ごまかすなって!!」
興奮気味の哲也が強い口調で言い放った。
こんなにもわたしが我慢しているのに。
感情を押し殺しているのに、哲也はそんな気持ちに気づくこともなく、理解不能な感情をわたしに飛ばす。
わたしの中の苛々が絶頂まで達してしまった。
『ごまかしてんのは哲也でしょっ!!自分の気持ちごまかしてんのはわたしじゃなくて哲也じゃんっ!!全然嬉しくないし、欲しくないよっ!!』
涙声で吐き捨てたわたしは、一瞬呆然とした哲也の腕を振り払って長い廊下を走り去った。
「ゆきみさんっ!」
直人が当たり前に追い掛けて来てくれても、わたしは堪えていた涙を止めることが出来なかった。
分かっていた事…
分かっていたつもりでも…
その言葉はわたしには重すぎたんだ…
わたしのいない所で…
ずっとノリの側にいる…と、答えた哲也を…
―――酷く残酷だと思った。