■ 闇の中の真実5
「お前…今…」
眉毛を下げた顔の哲也が、小さな声でそう呟く。
その瞳は完全に困惑色をしていて、いつもは冷静な哲也にも動揺が見える。
『ん、どうかした?わたしの顔に何かついてる?』
ニッコリ笑って哲也が好きなお菓子を差し出した。
哲也は受け取りもせずにこっちを見ているから、わたしはテーブルにお菓子を置いてそれからゆっくりとノリに視線をずらした。
『ノリも一緒に食べてね?』
わたしの言葉に『ありがとう』って返すノリ。
この部屋はやっぱり居心地が悪くて、わたしはそのままドアに手をかけた。
『じゃあね』
「ゆきみ待て」
そう哲也が言った言葉に体がピクッと動く。
大きく息を吸い込んで振り返らずに『なに?』って聞いた。
座っていたソファーから立ち上がって、ゆっくりと哲也が近づいてくる足音が聞こえたから…
『直人待たせてるからもう行くね、バイバイ』
早口でそう言ったわたしは、少し強引にドアノブを回してドアを開けた。
「待てよっ、聞いてたんだろ?」
ガシャン!!
…って、ドアが閉まったのに哲也の声はわたしの真後ろから聞こえて、哲也がVIPから廊下に出て来た事が一目瞭然。
でもこうやってわたしが哲也に怒鳴られる意味が分からない。
哲也の人生なんだから、好きにすればいいのに。
わたしに遠慮なんかしないでいいのに。
わたしなんかの機嫌を取る必要なんてないのに!
そうする哲也の心が分かんない!
だから小さく溜息をつくと、わたしは怪訝な顔を哲也に見せた。
『哲也なに言ってんの?』
前に回った哲也の顔は困惑しながらもわたしを見返していて。
わたしの行く手を塞ぐみたいに哲也がわたしの手首を掴まえる。
哲也の視線から逃げるみたいに目を逸らしたわたしは、廊下の手前にいるもっと困惑した顔の直人を見つめる。
逃げられないように腕を掴まれているわたしはもう、哲也の顔も見たくないのに。
「そーゆう意味じゃねぇ。勘違いすんなよ」
…どうしてそんなに切ない声で言うんだろうか、哲也は。
そんなにまでしてわたしに弁解する意味なんてもう、今更ないのに。
わたしに「分かってもらおう」とする哲也が痛い。
もう、分かっているのにわたしは。