■ 闇の中の真実3


バンッ!

緩く開いていたドアが開くと同時にあたしに掴みかかっていた親父の手が離されて目の前のあたしを守るようにタカヒロが立ちはだかった。


「誰だてめぇ」

「自分の子供に手上げてんじゃねぇぞ」


低い声が響いてそれだけでちょっとビビってる親父の顔がタカヒロ越しに見える。

あたしはまだ乱れた呼吸を整えられなくて胸を押さえて激しく息を吸い込んでいた。

そんなあたしに気づいたタカヒロは最初から用意されていたかのよう、ジーンズのポケットから紙袋を出すとそれを片手であたしの頭に被せた。

二酸化炭素を吸い込んで少しずつ呼吸が戻ってくる。


「奈々誰なんだこの男は」


過呼吸で答えられる訳もないあたしに、それでもそう聞く親父にあたしの変わり、親父の胸倉を掴んで持ち上げるタカヒロ。

あまり大きくない親父は簡単に宙に浮いてうめき声をあげた。


「苦しいか」


それからそう発せられる。


「はだせ…」


足をばたつかせるもタカヒロは両手で尚も高く持ち上げる。


「テメェが奈々にした苦しみはこんなんじゃねぇだろ。実の父親に殴られる奈々の気持ちも考えらんねぇ奴に父親を名乗る資格はねぇ」

「ふざけん…」

「ふざけてねぇよっ!」


ビクッ…

親父のうめき声に被せるようにタカヒロが怒鳴り散らした。

もう親父は何も言えないくらいビビってる。


「毎日来るからな、文句があんなら俺に言え。奈々に手上げたら殺すぞ」


持ち上げたままタカヒロはあたしの部屋から親父を廊下に投げた。

すぐにパタンとドアを閉めてあたしに駆け寄った。


「大丈夫?」


そっと紙袋を取ったタカヒロの顔は心底心配そうに見えて、あたしはようやく落ち着いた呼吸で息をしながら小さく頷いた。

それでもあたしの体は震えが止まらなくて、一度止まった涙さえタカヒロがいる安心感でまたとめどなく溢れ出てきてしまった。

あたしが殴られていなきゃお母さんが殴られていただろう。

毎日のように殴られるお母さんは人前に出れるような姿じゃなかった。

誰も助けてくれる人はいなくて、お母さんと二人で命を絶とうと思ったことさえあった。

でも臆病なあたし達は結局堪えることか出来なくて、それでも何度も消えてしまおうと思ったけど怖くて出来なくて。

誰にも言えなくて、辛くて…

しゃくりあげて泣くあたしにゆっくりとタカヒロの温もりが落ちた。




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