■ カムフラージュ6


「でもほっとけねぇ…」


携帯越しに聞こえたその温かい声と言葉に涙が出そうになる。

ずっとガードしていたあたしの心を溶かしてくれるような優しさが溢れていた。



ブォーン…

マンションの下で車が通り過ぎる音がして、同時にタカヒロの後ろから聞こえる騒音も同じな気がして、あたしは違和感を感じた。

まさかとは思うけど…


『タカヒロ今どこにいるの?』

「ん〜、外」

『そ、外ってどこ?』


そう言いながらも、あたしはベッドの上に乗って外を見下ろせる窓のカーテンをシャッと開けた。


「バレたか」


そう言って笑うタカヒロ。

目を細めて笑っているタカヒロ。

あたしの住むマンションの窓の下、あたしの部屋のある5階を見上げているその姿。

デカイ単車の横、地べたにしゃがんで煙草を吸っている金髪のタカヒロがあたしの視界に映った。


『なんで?なんでいるの?』


そう言った声はもう、すでに震えてて、込み上げてくる涙を必死に堪えた。


「側にいなきゃすぐ助けらんねぇだろ」


そう言った声はすごく優しくて。


『た、頼んでないもん』


強がってみせるけど、声の震えがとれたわけじゃない。


「俺が嫌なんだよ、これ以上奈々を誰にも傷つけさせねぇ」


ズルイ…

そんな風に言ってくれる人は今までいなかったのに…

あたしの存在なんて誰も気づいてくれなくて、ずっと一人ぼっちだったのに。

そんなあたしの淋しさ全部拭ってくれた人なんて今までいなかったのに…

だからあたしは嬉しかったんだ。

すごくすごく、嬉しかったんだ。

今この瞬間が嬉しくて堪らなかったから、その気配に気づかなかったんだ。


ガチャッ―――


後ろでドアが開いた音にあたしは一瞬にして恐怖に包まれる。

目の前にたつ親父の顔を直視することが出来なくって…

黙り込んだあたしに気づいてか


「奈々どうした?」


遠くでタカヒロの声が聞こえたけど、あたしはもう声を出すことが出来なかった。

タスケテ タカヒロ…

あたしをこの世界からタスケテ…




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