■ カムフラージュ5
どうしてタカヒロはあたしなんかに優しいの?
どうしてあたしを助けてくれようとするの?
こうやって二人になった途端、その優しさを存分に注がれて、あたしはどう受け止めればいいのかが分からない。
青倉庫であたしを無視したタカヒロを思うと、素直に喜ぶことができなくて。
当たり前に彼女を抱きしめていたタカヒロと、今こうしてあたしに電話をかけてくれているタカヒロは同一人物なのに…
同一人物だから、分からなくて。
どんな気持ちであたしを構ってくれているのかが。
『…大丈夫だから、ほおっておいて…』
搾り出したようなあたしの言葉は、タカヒロを突き放す言い方で。
あたしのこと気にかけてくれるのは嬉しいけど、タカヒロに迷惑かけたくないって気持ちもある。
それは勿論、ゆきみや哲也くんにも言えることで。
あたしを仲間扱いしてくれるのは嬉しいけど、こんな現実明かせない。
ゆきみ達にこんなあたし知られたくない。
でも本音を言うなら、心のどこかではいつも誰かに助けを求めていて。
苦しくて逃げ出したいこの現実から、助けて欲しい…って。
タカヒロに『ほおっておいて』そう言ったあたしに、少しだけ沈黙が流れた。
そんな沈黙を破るべく―――
「怒ってんの?奈々…」
ドキッてした…
たった一言、名前を呼び捨てにされただけのことなのに。
申し訳なさそうなタカヒロの声に、あたしはやっぱり胸が痛くなる。
『お、怒るも怒らないも…
「ごめんな。でも奈々の事心配でたまんねぇ…一人で我慢すんなよ、そんなに強くねぇだろ…」
「ごめんな」なんて…タカヒロが謝ることじゃないのに。
弱い自分隠してきたあたしの気持ち…
意図も簡単に見抜くなんて。
これじゃあ今までの我慢が水の泡になっちゃうじゃない。
「チームの奴らが見てる前であからさまな態度はとれねぇ。変に探る奴らもいるかもしれねぇし、そんなくだらねぇ事でお前に嫌な想いさせたくねぇし…だから無視した」
それは、さっきの青倉庫でのタカヒロの行動の真意で。
あの時あたしは勝手に無視されたって思っていたことに、そんなタカヒロの想いが隠されていたなんて。
少なくともそれをタカヒロは気にしてくれていたんだって、それだけで十分だと思った。
それなのに―――